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Wednesday, June 25, 2014

その昔、私が彼に出会った時、彼は既に犬を飼っていた。名前はピンヘッド。

ピンヘッドは… 危険犬種として知られている、ピットブル。実は、彼 ─ アメリカはロサンジェルス北西部、チャツワースで暮らしていたマーブ・スペクター氏は、ピンヘッドの前にも犬を飼っていたそうで、その名前はクッキー。その後で二頭、後を継いだ犬がいるので、クッキー、ピンヘッド、レッドそしてホーティと、計四頭のピットブルを飼っていたわけだが、私が知る限り、レッドとホーティは子犬の時からやってきたわけではなかった。犬たちは成犬だったのだ。

その犬たちは、シェルターから貰われくるなどしたという。レッドは、コストコの駐車場で見つけられた、恐らくは野良犬。疲れ果て、空腹からやせ衰えていて、新しい家でとても幸せそうだった。ホーティはある日突然ドアの前に現れ、そのまま居着こうと決めたのだそうだ。

信じがたいのは、その犬たちが皆、とても良い子だったこと。もしあなたがシーザーミランのカリスマドッグトレーナーというテレビ番組を見たことがあるなら、カーミングシグナルを発する、他の犬を躾けるにあたって最も信頼されたシーザーの相棒、ダディというピットブルをご存じだろう。彼、マーブの犬たちも、まるでダディのようだった。

ピンヘッドやレッドが生きていた頃、私も、私の家族 ─ 子供たちもその犬たちと遊んだが、どこを触ろうと何をしようと、さして心配にはならなかった。家族の一員としてベストの、本当に良い犬たちだと感じた。だから、彼らがピットブル、危険犬種だというのは、とても信じがたかった。

マーブの死後もなお、ホーティはしかしマーブが良く海外などに出張して長く家を空けたりしていたせいか、彼を待ち続けていた。マーブが愛用していたランドクルーザーの同車種がパーキングロットに入ってくると、まるでマーブが戻ってきたかのような素振りを見せるという。聞くのは辛い話だけれど、そう、それほど忠実かつ素直な犬なのだ。

なぜ、マーブはそんなに良い犬を持てたのだろう。彼が犬を訓練したり躾けたりするのを見たこともなければ、訓練所に入れてもいない。訓練士に質問したというようなことも、聞いた覚えがない。それでも、ピットブルたちは彼の言うことを聞くし、常に落ち着いていた。実は、マーブはかなりの時間を、躾に割いていたらしい。ご褒美を与えながら新しい芸を仕込むのだけれど、とても辛抱強くやっていたそうだ。犬たちがマーブに応えたのは、彼を喜ばせたかったからだろう。マーブとケイはいつも犬を営んでいる社屋へ連れて行く。どこに行くのも、犬が一緒。いつも脇にいた。

マーブの奥様ケイに、あなたやマーブはどうやって、犬をそんなに良くしつけ、犬も馴れたのかと、秘訣をたずねた。彼女は答えて「マーブの秘訣はね…愛だけ」と教えてくれた。その答えを貰った今、もし犬があなたに馴れないなら、その原因はひょっとしたらあなたにあるのかも知れない、と思う。たぶん、ひょっとしたら、我慢や愛がちょっと足りないのかも知れない。もちろん、それぞれの犬の個性にもよる。だから、その答えはどの犬にも、どなたのケースにも当てはまったりはしない。だけど、一方で、マーブはその犬たちで私を驚かせながら、あった秘訣はたった一つだったのだ。それが、愛。

私たちは良く ─ シーザーミラン氏のやり方然りだが ─ 犬をトップダウンで、アルファになって躾けようとする。アルファであることは、一つの鍵であり、それはそれなりに正しいだろう。でも実は、もう一つのやり方の鍵がある。それは、犬たちは見て・聞いて学ぶのに足るほど賢いという理解に基づく、共同方式。犬たちには人間の意志を読み取る力があり、人間にも犬の気持ちを読み取る力がある、という説に沿ったものだ。だから、私たちが犬を信じれば、犬も私たちを信じ返してくれる ─ これは、良く知られたダーウィンの従弟、サー・フランシス・ゴルトンの学説だ。

マーブの犬たちは、実際、彼を信頼していたが、それは、子犬の頃から飼っているのではないのにも関わらず、マーブが犬たちを信じ、愛していたからだ。犬たちは違う家に貰われてきても、馴れるのに日時を要せず、すぐに馴染んでいた。すぐにマーブとの幸せな犬生が始まっていたのだ。私は今、愛だけがその秘訣だと習った。はて、それは私たち誰もが必要とするものではなかったかな…

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