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Thursday, October 25, 2007

日経ビジネス誌のNBonlineに、山崎養世の「東奔西走」(山崎養世氏:現在はシンクタンク山崎養世事務所で金融、財政、国際経済問題など調査研究)というコラムページがあり、そこで氏が「高速道路は無料にできる ─ 地方が豊かになり日本は新たな発展ステージへ」という論を発表されている。

「高速道路はタダにできます。その財源は…

十分にあります。歴代政府の政策や方針そのものが、それを証明しているのです。」

なんと心強い響きでありましょうや。氏によれば

「日本の自動車ユーザーは、消費税も含めて現在10種類、総額9兆円を上回る税金を払っている。このうち、揮発油税、軽油引取税、自動車重量税、自動車取得税、地方道路税は本来の税率のほぼ倍額。上乗せ分だけで2兆5000億円余りに達する」
「国が旧道路4公団の借金を肩代わりする。国が高速道路建設のコストを負担するなら、高速道路も普通の国道と同じになる。この時点で、高速道路の通行料金を取る根拠がなくなり、無料化が実現する」
「肩代わりした借金を国が返済する。国は、国債などを通じて独立行政法人よりも低い金利で借金できる。財務用語で言えば、デットアサンプション(債務承継)。連結会計で見れば借金額は変わらず、むしろ、国の方が、金利が安くまた返済期間も短くでき、全体としてはコスト削減になる」

そして

「試算では、期間が様々な長さの国債を市場実勢に応じて発行すれば、30年間で年間2兆円の財源があれば、肩代わりした旧道路4公団の40兆円余りの借金はすべて返してしまうことができる。つまり、年間2兆円あれば、高速道路無料化は実現できる」

─ なんと、上乗せ分で返済してもお釣りがきちゃう計算。民主党がマニュフェストに記した時から「なるほど可能だろうな」という漠然とした印象はあったものの、これほどクリアに、この件の回答例を読んだことはなかったが、其れもそのはず、この方自身が、どうやらその発案者の一人らしいのだ。

反論もある。が…

高速道路の無料化に反対する意見では、例えば猪瀬直樹氏が同じNBonlineのビジネススタイルで、無料化の話と環境目的税の話を混ぜた上で「財源がないのにどうするんだ」と迫っておられる(猪瀬直樹の「眼からウロコ」 タダは国を滅ぼす〜高速道路も年金もタダにできるわけない)。猪瀬氏の指摘は、民主党が二つの案を同時期に提案したのではないことを無視して、どちらも実現するのだと勘違いされているように思う。高速道路無料化案が出たのは随分前で、環境税の話とはタイミングを異にする。むろん、どちらも実現するなら理想的だろうが、確かに財源がない。だが、改めて見直すと、自動車ユーザーが収める税のなんと巨額にのぼることかとため息が出る。だから、一般財源として手を付けたくなるその動機は分かるが、どっこい「カエサルのものもはカエサルに返せ」だ。払った目的で使わないのなら、返金するのが道理。それを、取っているものは返さないでは筋が通らないだけでなく、未来永劫取り続けるつもりのようだから、なにをか況やである。それじゃあまるで、まだ売り上げていない分を計上したエンロンと一緒ではないか。

環境問題解決のための融通には反論しづらいようだ。いかに道路整備に不要論が出ようとも、環境問題は比較的新しい課題であり、次はこの解決に、という話は分かりやすいのだろう。だが、高速道路を無料化すれば一般道路の混雑が緩和される。車が高速道路に移ることで、信号停車などのない高速道路の連続走行は好燃費につながると同時に汚染物質の排出量も削減するのだ。

ディーゼルトラックで効果大

特にディーゼルトラックは走行停車を繰り返すことで汚染物質の排出量が増える(COは加速時に微量発生するほかゼロと考えて良い。またHCについても各種運転条件のうち最も多い加速時でもガソリンエンジンの20%程度である。NOxは運転条件により違うが、アイドリングまたは減速時にガソリンエンジンの約2倍出るといわれている。 ─ 自動車工学 ISBN4-627-69011-8 森北出版刊・尾崎紀男著 P233)ので、ポイントtoポイントを無停車でつなげる高速道路の利用は効果大。長い距離を走るトラックが国道から高速道路に移ることでは、さらにそうした重量級の車が信号停車しないので、国道などの、特に交差点付近で制動によって削られる路面の補修インターバルも長くなるだろう。欧州を中心にした技術革新で、ディーゼルの環境性能は飛躍的に向上した。脱硫燃料もようやく供給されるようになったことだし、昨年のル・マン24時間レースではディーゼルのアウディがガソリン車を抑えて総合優勝を飾ったように、速くすらなったのだ。さらに言うなら、バイオディーゼル燃料の存在もある。

全ての道路を無償化ではない

一般車両はといえば、山崎氏の案も環境問題を鑑みて、首都圏高速道路までも完全無料化することを説いてはおらず、ある程度金銭的な抵抗がないと環境の面でまずい場所もあり、そこはそれなりに有償とするのが妥当とされているように、特に通行量の多い場所だけに限って有料のままであっても良いのだ。特に首都高速は、耐震補強などの必要性も高いだろうと思う。安直に全て無償では実現しても良いことばかりではないわけで、そこは無償化推進論者もちゃんと押さえているのだ。

広い範囲の波及効果

パークアンドライドも高速道路無料化と相容れないかのように言われるが、どうだろうか。もともとやっちゃあいけない酒気帯び運転はこのご時世いよいよもって絶対に出来ないのだし、都心の駐車場の問題もある。ニーズに合わせて鉄道やバスに乗り換えたほうが有利なときにはパークアンドライドが選べると考えれば、利用者が少ないままになるとは限るまい。

駐車場の確保にあたっては、余剰財源を駅周辺の公共駐車場整備に回す手もあるだろう。今の地下鉄を掘る技術を見る限り技術面では解決できそうだから、駅周辺に土地がない以上、地下駐車場を掘ることだって視野に入れて良いのではないだろうか。それに、そもそも、駅周辺がシャッター街になってしまっている理由の一つは駐車場の不足ではないのか。一杯買い物して欲しいという一方で、それを持ち帰る手段を奪っているように、私には思える。だから、クルマが置けて持ち帰れる場所に買い物に行く。近くの商店街で買い物のために路上駐車して罰金を払わされたのではたまらない。それくらいなら、ちょっと遠くてもクルマの置ける郊外店へ行くだろう。それが、パークアンドライドで仕事帰りに商店街で買い物をして、そのままクルマで持ち帰れるのなら、話が変わってくる。

こういう具合に、環境といい地域経済といい、全体として見た場合のCO削減(によるCO²削減)や税収増につながりそうな効果がある以上、必ずしも財源を安直に既存収益だけの範囲で捉えて論じるばかりではなく、幅広くシミュレーションを行って見る必要があるのだと思う。これから先、排出権を買い上げるのも税金が使われるのだから、CO²削減効果は換金計算が可能なはずだ。

クルマそのものが変わる

次のステップの一つとしては、今よりもっとシティコミューター的なクルマが求められそうだ。それを予見させる例が、明26日から始まる東京モーターショウに見ることができる。例えば、ホンダの新しいコンセプトカー“プヨ”。名前通りデザインのみならず材質までがプヨプヨした車だが、コミューターに求められるところを非常に良く具体化していると思う。他にも一人乗り未来カーなど、コンセプトカーにおける環境への提案が多くなされているという。

パークアンドライドを含めて、一般道と高速道路の性質のコントラストを高め、ひいては住環境や快適性と利便性を様々な観点で高めることが、ながぁぁぁぁ〜い目で見たとき、結果として人々の暮らしや精神面に余裕もできるだろうから、生産性そのものもより高め得るのではないかなぁ、と思う。交通事故の面では、高速道路利用やパークアンドライドの活用が増えるとすれば、車両と人とが入れ混じる機会が減るのに合わせて、車対人の事故が減るのではないだろうか。一方、車自体の事故については、既にそうした機能をクルマが持ち始めているように、ハイテク技術などで防げる方向に進んで行くのだろう。こうした面でも、高速道路を無料化することで一般道路の通行量が減るなら、ことは良い方向に向かうだろう。

加速する変化に応じた論議を

自動車そのものの価値観も変わっていて、既に国内の自動車販売は下向きが続いている(登録車ベースで27ヶ月連続前年実績割れ ─ 日本経済新聞11月25日13面)中で、軽自動車が比較的善戦している。そのために軽自動車への増税論まである始末だ。要は、これまでの時代の移ろいと、あったもののありように対して、これから先の時代のそれらとでは、速度はもちろん内容にも大きな違いがあるということ。変化はますます加速するし、内容はテクノロジーを背景に大きく変わる。だから、交通と税の課題にしても、単純に高速道路の無料化や環境税といった各論に留まらず、全体を見渡してこれから先の変化を見据えた議論であるべきだと思う。さもないと、自動車減に合わせて自動車にまつわる税収も減るじゃないか。それこそ、前述のように「売り上げていないものを計上したエンロンと同じ」なのだ。