Skip to main content.

Tuesday, September 25, 2007

近畿圏では都心から近く手軽な山として六甲山登山に根強い人気がある。休日ともなれば、こぞって登山に向かう人たちの姿が、芦屋駅や甲南山手駅にある。しかし、実は存外に遭難の多い山でもある。

2007年9月17日の午前1時半頃、尼崎市在住のKさんの家族から尼崎南署へ捜索願が出された。16日午前10時から登山に出かけたっきりだったのだ。発見されたのは8日後の24日。山頂から南西に約4キロ離れた神戸市東灘区の住吉霊園内で、墓参に来た人に発見された。右腕にかすり傷がある程度で生命に別状はなかった。Kさんは霧のために道に迷った。食料はほとんど持たず、谷川の水を飲んでしのいでいたという。

2006年12月に「焼き肉のタレで助かった」と話題になった(後にタレ云々は誤報と判明)Uさんは記憶に新しい。兵庫県警がまとめたところによれば、2000〜2005年の5年間だけでも、六甲山系での遭難死亡は10人、神戸市消防局の救助活動160件。2006年11月26日には転落した女性が死亡した事故もあった。

六甲山の危険さは、事故が多いといわれる西山谷ルートに限らない。我が家の裏山のような位置関係ということで、犬の散歩がてら時折山歩きもするが、今年はどうも勝手が違う。

昨年は兵庫国体の山岳競技ルートということもあってか登山道が分かりやすかったが、今年は春の花がさほど美しく咲かず、さらには夏の猛暑に登山者の足が遠のいたか、登山者が少なかったルートでは道がネザサや雑草に脇の小川や登山道の階段状の部分が隠されている。足を踏み外してくじいたり倒れたりと、「愛好者による草刈りアダプトトレイルが必要かなぁ」と思うほど、危ない。

もう一つは、獣道。猪の多い六甲山は、猪が毎日のように歩きまわるその跡が、正しいルートと見間違うほどにくっきりしている。これに迷い込むとかなり険しいところを辿らねばならなくなるし、想定している目的地にも到達しない。

また、六甲山中には約1000もの砂防ダムがあるが、それこそ、いかに六甲山が脆く土砂災害の危険性の高い山であるかの証だ。春や秋、前線が停滞しているときには登山を控えて当然。ここ2年ほど注視してみたところ、時間雨量で100mm前後降ることもあった。登山道と思っても、実はそこは谷川の底、というルートも少なくない。普段は枯れているが、大雨が降れば川になる。しかも、一つひとつの尾根ごとくらいの場所のズレで、降雨量が極端に違う。

そもそも、今の六甲山に純粋な自然は「ない」。六甲山にある自然林は僅か1%で、大半は明治以後の人間による植林。明治初期には禿げ山だったそうだ。池は氷を採るために掘ったものだし、前述のように1000もの砂防ダムもある。道路は自動車専用で歩行者は肩身が狭い、今時珍しい環境が視野にない時代のレジャー産業の遺物のままだ。水場は少なく、ゴルフ場付近の谷川の水は飲用不適。登山対象としての六甲山は、明治以後に外国人居留地の欧米人が開発したことに始まっていると言うが、残されている明治の欧米人がカゴにのって登っていた写真が物語るように、南側のあの急斜面をふぅふぅ登って楽しんでいたわけではなさそうに思う。

光害で天文台がなくなり、バブル崩壊で企業の保養所は閉鎖され、去る6月15日には老舗オリエンタルホテルも閉鎖された。観光行政のありようと時代が求めるものがあまりにかけ離れていることが、今の観光不振の原因だろう。第一、ビジネスとしての稼ぎ優先で施設を整備するから、しっかりものの関西人にしてみたら「高い」と足が遠のく。地元の人間すら楽しめない上に登山事故が大きく報じられてばかりなんてところに、どうしてよそから人がやってくるだろうか。

登山道をもう少し気を利かせて遭難しづらいように整備し、水場を増やし、車と人の通り道を隔離することが先ず、必要。急坂を登ることだけでなく、横方向に、急坂を登らず歩いて楽しめるようにルートを切り開けば、ロープウェイなどと連携して気軽に、年齢を問わず、膝などに負担をかけず無理をせずに緑の中を散策できるようになる。純粋な自然はないと書いたが、六甲山には、人々の努力によって今なりの自然が育まれている。都心からこれほど近いところに、これほど豊かなアウトドアフィールドがあるのも珍しい。ただ、今はまだ折角のその恵みを十分に活かせているとは言い難いと思うのだ。

光害といえば、一千万ドルの夜景は、環境問題の観点から言えば一千万ドルの余計。CO²削減のため、五百万ドルの夜景に改めました、なんて言えたら、これからの時代、最高のキャッチフレーズになるのではないだろうか。減ったのにもっと綺麗になった神戸の夜景、といえるような結果が出せるようにすることこそが、照明デザイナーと言われる人たちがこれからやるべきことだろう…と、これは余談。

いずれにせよ、これから秋たけなわで登山シーズンにもなるが、数年の累計で10人以上の死者を出すような山 ─ それが六甲山。先ずは、登るならあなどらず、安全を最優先で考えていただきたいものである。