
誤解を恐れずに敢えて書こう。談合容認論のように受け止める向きもあるかも知れないが、地方零細業者に、その地方の公共工事受注を限定するのは、決して悪いことではないと、私は思う。
今朝の朝日新聞朝刊一面に、金子国交相が高速道路の工事で入札方法の変更を指示していたというニュースが、与党の選挙対策であるかのように報じられた。さて、果たしてこれはニュースが断じるように、選挙対策的でなおかつ
「参加業者が固定化することで談合の温床になり、分割発注は一括発注と比べ建設コストが増す」
ようなことなのだろうか。
モノ申す株主
先ず、この記事が小泉改革の「聖域なき構造改革」の一環であった高速道路公団民営化の志を妨げるものとして入札方法変更指示を断罪している事が、気になる。株主が企業経営へ口を出すのはケースバイケースとはいえ権利であり、道路各社の全株式は国交省と財務省が所有している。つまり、物言う株主が、正当な理由をもって経営に口を出すのは、認められる行為だ。
タイミングが選挙前なのであらぬ疑いをもたらしているが、選挙が終わり国会が招集され内閣が辞職するまで、大臣職にある政治家はその任を全うしなければならないし、そうでなければ困る。
ベストバリュー原則
次に、
3社のある幹部は「選挙対策への政治利用で、民営化や入札改革の趣旨にも逆行している」と反発。
はどうだろうか。時期的に選挙とぶつかりはしたものの、民営化の根本には天下り先への発注やファミリー企業の優遇があった。地元企業の優先は、天下りとは問題が異なるし、工事はパーキングエリアの事業の問題などとも違う。
何より気にすべき課題は、工事の質である。日本の行財政改革が倣ってきたサッチャーリズムの流れで、英国の行財政改革では基本に据えられながら、日本においては曖昧なままとなっている「『ベスト・バリュー』原則」という課題がある。
日本の行財政改革が模倣するサッチャー政権下では、現在日本で随意契約の廃止方向で進められている競争入札の徹底に相当するCCT(強制競争入札:Compulsory Competitive Tendering)という、競争原理を自治体の行政サービスに導入するべく実施した政策があった。CCTは保守党によって推進されてきたが、1997年に労働党政権に代わった時、労働党がCCTに絡んで示したのが、払った税に対して考えられる限り最高価値のサービスを納税者が得ることを目論む「ベストバリュー」。現在ではさらに進んで、評価手法の確立に向けた取り組みが行われているという。
ベストバリュー原則がないがしろだから、競争入札で叩き合いが生じる。自ずと、資金力に勝る大手が落札する。極端な例はシステム開発の1円落札だが、普通に見ても、事業として全く間尺に合わない額で落札された例は幾つもあるだろう。こうしたケースでは自ずと、成果物に十分な品質が確保されづらい。もし長く見てそれでも元が取れるから良いというのなら、それは、発注者が知らない・気づかない落とし穴があり、長い目で見て納税者に損になる可能性があることに他ならない。さらに、赤字でも請けるなら受注業者側では技術やサービスの安定した供給を担保することが困難になる。先々、より良いものを作るための技術開発や研究・研鑽もできなければ、作るための道具の更新も叶わない。結果を享受する市民も、安かろう悪かろうの結果しか得られない。それでも安ければ良いと思う国民・市民は、まずいないだろう。
もう一つの課題「地域経済循環」
なにがしかの仕事で、地元支店であっても他都市に本店を置く大企業が受注した場合は、その利益を本店が吸い上げるから、お金は地方で循環しない。地域の中の企業などが地域の外で作られたものを使った場合も、それは地域に輸入された素材で成された仕事で、域外にお金が出たことになる。だから、その地域の資源を使ったその地域の企業などによる仕事だけが、地域所得となって地域の資金循環になる。
今、日本国内において、東京などの一部都市圏を除き、地方は移入超過=赤字だ。つまり、地域経済循環が成立していなくて、お金が外に出て行ってしまっている。今回の件は、この地域経済循環の破綻した状況に配慮しようよ、ということだと拝察する。疲弊する地域経済という課題において、発注先の地域業者への限定は、極めて正しい。
三つ巴の合格圏
入札制度改革の要は、「官製談合」撤廃や天下り排除による内輪優遇排除など、全く別な所に力点を置くのが良く、そうしたことも「『ベスト・バリュー』原則」に含まれると考えることもできる。つまるところ、国民、納税者にとっての最大利益が何かという視点から見てみれば、良く分かるのだ。ベストバリュー・地域経済循環・株主権限の三つ巴で、冒頭に紹介した入札方法変更指示の件は、正当な立場の大臣による、正しい行為だ。間違っても、新聞の一面で叩かれるようなことではなかろうに…。
Posted by nankyokuguma at 17:33:02. Filed under: General
