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Friday, April 25, 2008

博多を離れて14年。その頃までにも幾度か、福岡空港の移転話は浮いては消えてきた。だから、今回、日経BPnetで大前研一氏のコラムを拝読しても「まだ諦め悪くやってたのか」というのが正直な第一印象だ。

大前氏も仰せのように…

現福岡空港(板付)は日本で一番、世界でも屈指の、便利な空港だ。空港があれほど近いからこそ、世界中に気軽に旅立てる。訪問する人々にとっても、その利便性は高いし、貨物にしても、通関後市場に供給するまで最短距離にある。それを、例えどこであろうと移動させたら最後、博多と海外の動脈は切れる。

もともと板付は日本軍が使っていた席田飛行場の昔、新型試作機“震電”が試験飛行していたような空港だ。飛ぶか飛ばんか分からんものを試していたからには、相当安定した環境なのだろうと思う。実際、東脇に横たわる小山が防風壁・整流板のような役割をしているような地形に見える。強制収容した田畑を慣らして空港にしたのが1944〜45(昭和19〜20)年。連合軍が接収していたのは1951(昭和26)年までで、その後民間機も就航。化学消防車があるのは米軍がいる板付だけ、などという噂を幼い頃に聞いた覚えすらある。完全返還されたのは1972(昭和47)年だ。

一方、候補地あたりには大昔、陸上に芦屋飛行場があった。映画「芦屋からの飛行」を知る人もあるだろう。霧が多く就航率が低くなるのは言うまでもない。北九州空港の候補地にもなったが、落選したのはそんな理由からだったように記憶している。芦屋や雁ノ巣(志賀島へ渡る海の中道)飛行場も米軍接収空港だったが、米軍が去った後は、民間で使われることもなく、芦屋は現在航空自衛隊第13教育師団が駐屯し、T-4練習機を飛ばしているそうだ。自衛隊が主力に取ったのは築城である。単に利便性の上からだけでなく、自然条件からしても、福岡〜北九州間は空港に向かない場所、或いは板付に比べると見劣りがする、と考えるのが素直だと思う。

実は、場所にそのような課題がありながら諦め悪く未だに空港移転を経済人が主張する理由は、大前氏が言う空港の土建だけではない。福岡市内は離着陸機のために建物に高度制限がかかっていて、高層ビルが建てられないのだ。空港をどければ高層ビルが建築可能となるとあって、建設業者は空港が移転した後の高層化ラッシュを夢見て久しいのである。その経済効果は、地価の上昇だけでも三兆円という試算もあったようだ。だが、地価が上がるのは現在の福岡の魅力の上に高層化が可能になった場合のこと。空港がなくなって魅力が半減すれば、土地の価値は相殺かより減ることだって考えられる。

それでもなお、もし空港を移転し高層ビルを乱立させたらどうなるだろうか。都市中心部の人口密度、特に昼間人口は劇的に上がるものと思われる。その結果、上下水道や交通などの面で現在以上に負荷がかかるはずだが、そうしたインフラのほうは人口密度の急上昇を支えるほどには改善されていない。博多駅地下が水没して人がなくなったのは御笠川氾濫が原因だが、これも手つかずだと聞き及んでいる。さらに、折しも今日、30年以内に震度6弱以上の地震が起きる確率が上昇したことを西日本新聞が伝えたばかりだ。断層があることは以前から指摘されてきたことだが、こうなると、高層ビルを建てるとしても当然、相当な耐震性能が前提となるだろうから、この件の発表前のそろばん勘定ほど安普請では済まなくなったわけだ。

ハブを目指して24時間離発着というのも、大前氏の論にもある通り、大いに疑問だ。そもそも、他のアジア各国の空港に比べてスタートラインに立つのがあまりにも遅く、周回遅れどころではない。それに、関空が良い実例だが、空港に到着してもその後の鉄道などの足は朝までなく、自前の足を空港付近の駐車場業者に預けているか、迎えに来て貰うか、或いはタクシーを使うかでなければ、空港を離れられない。結局は昼間の便に利用者が集まるのだから、貨物便を除いて24時間化の意味は薄い。

唯一、板付からどこかへ移転させる必然性があるとしたら、墜落という危険性である。毎日頭の上をジェット機がかすめるだけならまだしも、時には部品が落ちてくるようでは、移転に反対とは言いづらい。だが、これまた大前氏の論の通り、様々な条件からみて、鳥栖が一番良い場所だろうと思う。

福岡市民は昔っから飛行機の騒音には慣れてしまっているとはいえ、ウルサイのは確かで、それを根拠に学校の防音工事が進められてきた経緯もある。非常にタイトなゾーンに限られるが、BS放送などの衛星電波が離発着機の影で途切れもする。だが、それらをしてなお、板付の利便性で得られる様々な共益は、移転で得られる目先の果実を上回る長期的な収穫と、文化的な発展の種があると思う。問題なのは、福岡市自身が、その利便性をフル活用できていないことではないだろうか。どうも移転という甘い汁が頭をよぎって板付のフル活用から腰が引けているように見えるのだ。

余談だが、今は日本中にあるロイヤルホストのロイヤルは、板付発着機の機内食ビジネスで伸びたのだった。また、よど号が北朝鮮に飛んだときには一旦板付に着陸した。小学校を卒業したてだった私は、友人と博多駅に行き、駅ビル百貨店屋上の観光双眼鏡でよど号を見た。色々と思い出の深い空港である。個人輸入では幾度も受け取り・通関に通ったが、半日あれば事足りた。関西に移ってからは、伊丹でも関空でも一日仕事だったし、交通費もそこそこかかるようになった。伊丹は最悪で、荷を積む車を置いておく場所すらなかったから、関空に貨物が移転したのはちょっと嬉しかったりもしたが、福岡空港の便利さとは比較にならない。関西に移住して一番困ったのは、関空が出来るまでは飛行機の利用が著しく困難だったこと。なんせ、空港にどのくらいの時間でたどり着けるのか、全く読めない。アメリカやイギリスなど多くの空港を一人旅で使った経験のある私がたった一回だけ、飛行機に乗り遅れたことがあるのだが、それが伊丹。だから、伊丹の関空移転や神戸空港については大前氏の意見には相容れないのだが、現在の福岡板付空港の移転論については、大前氏が仰せの通り、「長期的には世界経済から取り残される」だけなのだ。