IBMが開発し、デジカメ用などの超小型大容量ストレージとして供給してきたマイクロドライブ。一時はNASAが宇宙ステーションでの撮影にも採用したほどだったが、IBMのハードディスク事業部門を買い取った日立製作所の子会社、日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)がこの事業から撤退すると、12月30日付日本経済新聞が伝えている。
コンパクトフラッシュサイズでハードディスクならではの大容量かつ低価格。フラッシュメモリが安くなった今でこそ色褪せているが、超小型サーバーなど、用途は広かった。もっとも、私も、IBM製のマイクロドライブをDSLRに使っていたらある日突然読めなくなり、焦ったことがある。どうやら、マイクロドライブの故障はある日突然にやってくるらしいと分かり、以後、値段が下がっていたこともあって、DSLR用はマイクロドライブはよしてCF一辺倒にしてきたのだから、ニーズが激減しているのも無理からぬとは思う。
同紙によればHGSTは1インチHDDであるマイクロドライブのみならず、1.8インチも来'08年夏を目処に出荷を止めるというから、ハードディスクビデオカメラ用などの小型HDD供給は東芝を筆頭にシーゲートテクノロジーとサムスンの三社に絞られることになる。
企業が選択と集中で勝てる分野に経営資源を絞って行く中で、東芝が液晶製造から撤退すると報じられた矢先の、今回のマイクロドライブ撤退。確かに企業にしてみりゃあ生き残りをかけた判断なのだろうが、1インチHDDが“なくなる”というのはなんとも極端な話のようにも思う。
フラッシュメモリのほうが耐衝撃性もあり省電力でもあるのだから、価格さえ安くなりゃあそれに超したことはない。要は自然の成り行きなのだが、昨日のネットスケープの終焉に続いてマイクロドライブの終焉ときては、大きな時代の変わりめの渦が目の前にあるように感じられる。毎年のように「激動の」と形容される一年がやってきては過ぎるのだが、変わりようが年々、よりダイナミックというか、極端になってきていると思うのだ。
市場規模の縮んだ製品を細々と作り続けることで小さいながらも市場を寡占して得られるような利益を“残存者利益”という。ある種の工業製品には、そんなものを今時誰が使うのと思ったところで、どこかに拾う神があるわけだが、どうやらマイクロドライブにはないらしい。
だが、儲からないからと単純に製造を止めてしまわれては困るモノだって、結構ある。“定番”とか“永続性”といったことも、優れた製品の一つの側面ではないのだろうか。マイクロドライブには、大きな可能性を秘めながら、その用途をiPod以上に広げられなかった悲哀が漂っているように感じる。
そして、その悲哀は、所得が下がる中での物価の上げ圧力という、市場の歪みにもつながっている。材料仕入れはインフレだが販売はデフレ。ねじれた歪みの中で耐えきれなくなったものは、ただただ消えゆくのみ。マイクロドライブはフラッシュメモリに圧されて需要が細ってしまったとはいえ、安価なら安価なりに新しいニーズを生み出してパイを広げることができなかった。日立が製造を止めるということは、マイクロドライブを使った製品がもしあったら、そのディスクの寿命がその製品の寿命とイコールになるわけで、製品の継続性も同時に失われることになると思うと、淋しさも増幅される。明日の夜の除夜の鐘は、例年にもまして寂しく響くのかも知れない。
Posted by nankyokuguma at 10:46:46. Filed under: General
