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Friday, February 02, 2018

コンパクトデジカメがスマートフォンに圧されるデジカメ市場だが、高性能製品群は好調らしい。そんな中、気を吐いているのはミラーレス中判の、フジフィルムとハッセルブラッドだ。センサの受光素子一つひとつの面積が大きくなるので、それだけ画質が良いという。

もちろん、原理的にはその通り。35mmフルサイズ5000万画素よりも、一回り大きな5000万画素のほうが、一素子の面積は広がる。だから、フォトンを多く捉え、より豊かな画質、より広いダイナミックレンジとなる…筈だ。

ところが、そこには一つ、大問題が潜んでいる。それは…

レンズである。

大は小を兼ね得ない

言うまでもなく、センサが大きくなれば、より広いイメージサークルを持つレンズが必須となる。一方で、フィルムの昔でも、大判カメラに使うレンズは35mmに比べて精度で劣っても良いんだと割り切ったレンズは、あった。この理屈から、センサ側に注力してレンズはある程度のところで割り切る、という考え方は、一応成り立つ…というか、同じ画素数なら中判のほうがメッシュは粗いのだから、分解能は低くて済む。ゆえに、中・大判用レンズを35mmで使っても、思ったような性能は出ない場合が少なくない。

もちろん、そんな理屈を吹き飛ばす高性能レンズは確かに、当然、高価で巨大だが。ある。だが、カメラには幾つかの求められる要素がある。機動性や速写性、携帯性に頑丈さ ─ そして、「レンズの選択肢」だ。

200-400 vs 100-400
200-400の、性能とバーターの「巨体」

写真フォーマットが巨大になるにつれ、カメラ全体の要求要素の幾つかは、バーターで失われる。スタジオに据えて撮るだけだったり、必ず車で移動できる、或いは荷運びのアシスタントがいるといった条件が、そのバーターで損なわれる面を埋め合わせする場合もあるのだが、レンズの選択肢だけは、どうしようもない。建築物という被写体があるおかげもあってか、広角系は比較的充実しているが、望遠系は限度があり、超望遠など望みようもない。

私は、大昔にマミヤRZ67を使っていた時期があり、その頃には500mm望遠レンズも持っていた。だが、500mmといってもそれは、レンズをマウントでは支えられず、サポートプレートが要るほどの大きく重たいレンズながら、望遠としては実質、35mmの250mmにも及ばない。もし、6X7版に1000mmなどというレンズを望んだらどんな結果になるか、推して知るべし、だ。

つまり、撮像素子が大きくなれば、より大きなレンズが必要となるが、その一方で、それに期待されるであろう性能を得るのは存外に難しいのだ。おまけに、市場性は35mmほどではないから、自ずと量産効果は低く、価格はより高くならざるを得ない。例えばあのサンニッパ、EF300mm f2.8Lなどの巨体と価格を考えてみると、良く分かる。35mm用ですら、性能を上げればあゝなるのだ。

運命の分かれ道

もし、35mmフルサイズまでのセンサをより良く作れるなら、自然の道理におもねる中判化よりも合理的に、懐の広い世界が築かれる。35mmフルサイズでは敵わないPhase OneやLeafといった100メガピクセル級は別として、今のセンサの性能を上回るのを待っていられないのなら中判というのが一つの道で、資金力がある上に、得られるレンズの範囲に自分の望む表現が収まっているのであればそれで良いのだが、望む表現が得られなくても敢えて中判を使うのは、違うだろう。

200-400

ピクセルピーピングで画像を強拡大して見たり、意地悪くシャドウを持ち上げてみるなどすれば、アラも出る。しかし、普通に見るという本来の目的において、現在の35mmフルサイズとデジタル中判の間に、どれほどの差があるだろうか。私には、確かに違うとはいえ、別世界だというほどにその差があるとは思えない。但し、それは例えば、35mmの5000万画素において求められる分解能を有しているだろうレンズを使うから、でもある。

この、レンズ分解能の限界は、2000万画素を越えたあたりに一つの閾があるように思う。と、いうのは、それまで「良い」と思っていたオールドレンズが、2400万画素になった途端に「駄目ダメ」となったからだ。このレンズ側の閾を越えずに5000万画素を得るには、だからセンサを動かしてヴァーチャルにセンサ面積を広げたような状態にするか、センサを中判化して新たにシステムを構築するしかない。だが、レンズ性能が有り余るなら、35mmでも良いわけだ。

フィルム時代にはもともとの版の違いと印刷などのニーズから、それは二重投資ではなかった。だがそれは、製版する上で6X7版なら直接一回で大きなポスターにできるものが、6X4.5以下では複数回の拡大になるから。或いは、大伸ばしのプリントで優位、といったことだった。おまけに、フィルムの単位面積で考えた時、粒状性が35mmと120/220や4X5で大きく違うわけでもないのだから、原版の大きさにあぐらをかいた駄目レンズを除いて、自ずと大フォーマットが優位になった。もっとも、これを克服する手法もあって、拡大デュープをワンステップ噛ませれば、フィルム次第であはるが、35mmでも互角に持ち込むのは可能だった。

ところが、デジタルでは画素数が多ければ拡大利用への第一目標は果たされるわけで、残る差異は撮像素子一つひとつの大きさに基づくという色の豊かさや、ダイナミックレンジの広さ。見る側にそれだけの色の豊かさやダイナミックレンジの広さを伴う少しでも良い写真を提供する、そうした目標が必須の被写体が対象なら、もちろん値打ちはあるし、恐らく、その場合の対象は前述の超望遠など不要のジャンルだろう。また、綺麗だと感じる画像にありがちな色飽和から逃げがたいという現実を見ると、商業印刷を前提とした色飽和の課題は、今日、果たしてそれほど重大なのだろうかとも思う。無論、飽和せずそこにディティールを抱いていては欲しいが、色空間についてはむしろ、HDR対応のモニタが増えている今、より広い色空間を再現できるモニタなどを前提にして考えても良いのだろう。

つまるところ、道具の収集という趣味ではなく、様々な目的・用途から適切な機材を選定し、望みが叶うように投資するのが買うべき道具を得る道だとすれば、間違いない。そこを間違えると、今の機材群ではまだ、下手をすれば35mmと中判の二重投資になりかねないように思えるのである。

その機材だけでなく、システム全体で見る

例えば、こうだ。中判を据える世界を選ぶなら、それを補う機材をAPSサイズやマイクロフォーサーズにする。そうすれば、中判に十分な投資をしつつ、なおかつそれを補う機材の費用や、運搬の重量と荷の大きさをセーブできる。

もし超高性能レンズの選択肢を、特に超望遠を含めて選ぶなら、35mmフルサイズ。中判に二重投資したつもりで、思いっきり良いレンズ群を選んで、気長に揃えて行く。いつかそのうち、撮像センサの性能が現在の中判の意義を吹き飛ばすようなものになっても使えるように、だ。それは、そう遠いことじゃないように、私には思える。

もちろん、全部あってニーズに合わせてとっかえひっかえできるなら、それに超した事はない。けれども、資金力の問題を抜きにしても、移動しての撮影を考えると、持ち運ばなくてはいけない機材に、それぞれの条件での制限がかかる。そこを、どう割り切れば、望むような世界を写真として収め得るか。そう、妥協を知らないプロとか言うけれど、案外妥協だらけで、それでも、その妥協点そのものがちょっと高い位置にある、ということだ。

標準的なレンズ一本、或いは広角専用機のノリで、とにかく固定した機材での一本勝負という世界も、もちろんあるだろう。そういう写真を撮る方には、それで十分満ち足りている。だが、そうでないならば、その機材だけで収めたシステムではなく、より広く捉えたシステムを見据えた方が良い。

今再び、レンズで選べば

その昔、FD300mm f2.8Lが一世を風靡した頃は、「レンズで選べばキヤノン」と断言される程だった。レンズで選べばキヤノンの時期は存外に長く続いたが、ニコンも電子マウント化され、何時しか、それほどの強い表現は耳にしなくなった。

だが、例えばEOS 5Ds/5DsRで5000万画素以上の画素数も得られる今、改めて、レンズで選べばキヤノンと言いたい(もし私がニコンユーザーなら「ニコン」と言うだろうけれど…)。なぜなら、その最大画素数モデルのそれはほぼ、フジやペンタックスの中判そのものだからだ。Phase OneやLeafといったデジタルバックを使うならばまた、違う話になるのだが、少なくとも5000万画素級を一つの目安にレンズ選択肢を見た場合、その軍配は35mmに上がる。センササイズが35mmよりも大きなカメラに、イメージサークルでそれを前提としていない35mmフルサイズ用ののレンズを使うのはまず論外なのだから、自ずとレンズシステムの豊かな側に軍配が上がるのだ。

では、ハッセルブラッドやフジがなぜ今、中判のミラーレスに出てきたのか。その答えもやはり、レンズだろう。ペンタックスはミラーボックスを抱えたがゆえに、専用レンズしか使えない。その縛りであるフランジバックをなくせば、基本的にはあれもこれも使い放題となる。電子マウント・電子絞りだから、プログラムの制約で他社レンズでは「絞れない」という縛りがつくが、自社がこれまで出したレンズには互換性を保てる。だから、旧製品ユーザーを惹きつけやすく、様子を見ながらやって行ける。中判だからこそ、分解能の余地が出て古いレンズが活かせる ── これは、35mmでのオールドレンズで出てきた24メガピクセルの閾にも通じる。恐らく、例えば100メガピクセルを越えるなど、ある閾値以上になればより高性能な専用レンズが必須となるなどするはずだし、それは、そのレベルに達している機材を見れば、分かる。

結論を言えば、今この時の落としどころは、35mmフルサイズ相当のセンサでの大画素数とならざるを得ない。中判フォーマットをレンズを含めたシステムとして切り開くのは大メーカーとて容易ではなく、一方で使う我々の側は、ロードマップが出ていたとしても、それを待ってはいられないのだから。