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Friday, May 19, 2006

Jordanwatts Flagon
オーディオスピーカーといえば、いかにも四角くそれでございと部屋の中にのさばるものが多い。高級オーディオといえども例外ではなく、いかにも高いものを買いましたとばかりに、スピーカー自身が目立ってしまう。そんな中、今は会社ごとなくなった英国のJordanwattsのFlagonというスピーカーは…

傑出している。

中学生の頃、真空管アンプ自作やスピーカー自作でオーディオに目覚めて以来、ずっと脳裏にあったスピーカーがJordanwatts Flagon。当時はなんせ高価で、一本10万円を超えていたように思う。時が過ぎ、今の家に引っ越した十数年前、新居用のオーディオラックを買い求めに電器店に出向いたら、そのFlagonが3万円台で飾られていて、目を剥いた。考えてみれば円高のご利益で当然なのだが、20年ほども密かに抱いてきた憧れがよみがえって、買ってしまった。

それからというもの、時として鳴らすことはあったが、最近ほどではない日々が続いていた。それが、頻繁に鳴らすようになったのは、iTunesとiPodのおかげ。好きな組み合わせでプレイリストを作成し、或は好きなテーマに沿って登録されている全てのシンガーの同じ曲を聞き比べ、これというものばかりを寄せ集めて自分のリストにする。これを、パソコンではなく、オーディオセットに突っ込んで鳴らす。構えて聞くのではなく、自然に流す感じが良い。デスクトップのMacにはJBLのSonnet M310Jを使っているが、音質は比べるべくもない。

すっかりはまって楽しんでいたある日、Flagonの片割れからガリガリとノイズが出た。でも、新品は既になく、設計者のE.J.Jordan氏は引退、メーカーも消滅したらしい。交換部品などw.w.w.で調べてみると、なんとJordanwattsの中古スピーカーユニット一本5万円也。こりゃあ自分で何とかするのは到底無理と諦め、駄目モトとばかりに輸入元の今井商事へ問い合わせた。すると…「修理可能」の返事。「コーンアセンブリーの張替えが必要です。上記修理は当方にて可能ですが、補修機材に限りがありますのでなるべく早くお送りください。」「修理のうまい技術者が定年退職しており、修理等の依頼に応じて来社し作業をいたしますが、先方の都合により多少日程がかかる場合があります。」─うぅ〜ん、と、これだけで、もう感動。

ない間の寂しさは仕方がない。とにかく送って、待つこと2週間半。修理が完了して届いたFlagonをつないで鳴らしたときの嬉しさは、とても筆舌に尽くせない。今までにも増して連日鳴らしているのだが、仕事の背後に流れる音が快適だと、こうもイライラが収まるのか、と思う。ちなみに、音源はデジタルでもつないだ先の機器は古いアナログで、TRIOブランドのレシーバーを介しているが、恐らく、音を柔らかくするのに貢献してくれているだろうと思う。修理を受けてくれた今井商事には心から謝辞を述べたい。数十万円もするような最高級オーディオの専門店だから、Flagonのような比較的廉価な品のユーザーはどうだろうと思ったのだけれど、毎年年賀状が届いていたその姿勢通りで、誠に信頼に値する代理店である。それに、仕上がりの完璧さで、修理をした職人さんの腕にも敬意を表したいと思う。

一生モンという形容が死語になりつつあるかのような風潮があるが、こうした「良い品」はやはり「一生モン」であり続けて欲しい。また、Flagonの新品がなくなったのは寂しい限り。iPodのような音源が気楽に音楽を生活や仕事の時間と密着させられる今から、心底本領を発揮する製品だと思うからだ。理屈でなく、耳で、心で分かる音 ─ 本当に音を楽しめるスピーカーのうち、Flagonは出しゃばらない範囲で最良の結果を出している品。それは、「機能」という単語の本当の意味を具現化している、ということなのだ。