Skip to main content.

Saturday, December 10, 2005

Macにスイッチして、はや一年。気づいたことの一つに“インターフェースの気配り”がある。
ビギナーや使えない方々の意見を伺うと「うっかり消去して懲りた」「うっかり消去した話を聞くと、怖い」といった話が存外に多い。そんな方々に良く話しを伺ってゆくと、たいていは…
Windowsでの話だ。

GUIへの低シンパシィが生み出す罠


では、MacとWinでどこが違うだろうか。一気に消去せずゴミ箱に入るのは一緒で、うっかりを救済するフェールセーフ構造にはなっている。だが、例えばエクスプローラーのプルダウンメニューを見ると、Winはショートカット作成や名前の変更といった作業に挟まって削除項目がある。Mac OS Xのファインダーでは「ゴミ箱へ入れる」は罫線で区切られた別なゾーンに、明確に分けられている。つまり、Windowsではファイルメニューからショートカットの作成や名前の変更をやろうとしたとき、うっかりマウスが滑って削除してしまう危険性が放置されているのだ。リムーバブルディスクにいたっては、取り出しとフォーマットが併存する。

むろん、ここで削除を選択しても、警告ウィンドウが念押しするようにはなっているし、或は、作業窓が開くだけだ。だが、その作業をやるんだと思い込んでいる場合、この策は無意味だ。先週発生したみずほ証券の誤発注事件も、警告画面を無視している。
ミスが頻発する影には、ミスを誘発するインターフェースが原因の一つである可能性が高いように思う。Mac OS Xの使い易さには、ストレスを減らし、ミスを減らす効果があるように感じる。両者には、エラーへの反応一つとってみても、刺々しく怒りたくなるかか苦笑いで済ましたくなるか、くらいの違いがあるのだが、マンマシンインターフェースとしてのGUIは、人間が冒しがちなエラーを排除するようデザインされているべきだ。

ここで、なぜ日本でみずほの誤発注のようなミスが頻発しているのかを考えると、先ず、設計者自身にGUIのシンパシィがないであろうことが指摘できる。コマンドラインで扱い慣れた身には、GUIはリソースを食らい面倒なだけのうっとおしい存在なのだ。私自身、del *.*と打てば済むものをなんでマウスで、或はショートカットキーでやらんとあかんのか、と思うこともある。lsやfindといったコマンドでのタスクも然り。しかし、良くできたGUIが直感的な操作を可能にし、ケアレスミスを減らす役割を果たし得るのも、また事実であると知っている。
つまり、GUIへのシンパシィがなければ、GUIであれば良いんだろうとばかりに、ボタンクリックになっていれば十分と思い、その結果、消去と保存が隣り合ったインターフェースが出来てしまうなどといったことになるのではないだろうか、と思うのだ。マンマシンインターフェスの作業効率にかかる研究など、さほど力が注がれるわけもなく、ただボタンクリックならGUIでござい、という次元で捉えられてしまうわけだ。
これの最たる例が、Webページに設置するCGIのボタン類の装飾で、グラフィックで置き換える以外、手が無い。もしW.W.W.に関わるW3Cの御歴々に少しでもインターフェースが及ぼす影響の大きさが分かっているなら、これを放置するのがいかに危険なことか察知し、すぐにでも仕様を練り直すのではないだろうか。

GUIインターフェースについての技術者の理解が必要という意味では、Oracleに関連したニュースに「日本のビジネスソフト市場では独自に作り込まれたアプリケーションが好まれる」とあったが、これが、危険な傾向に拍車をかけてはいないだろうか。汎用ならば企業が研究した結果をインターフェースに織り込めもするだろうが、個々の誂えソフトでは、インターフェースデザインは制作関係者の力量に委ねられるからだ。当然、インターフェースへの細かな配慮は吹っ飛んでしまうかも知れない。そこにもってきて、多くの誂えアプリのプラットフォームであろうWindowsの大欠点が出てくる。削除も保存も同じ色、似たような大きさの味気ないボタンで、しかも隣り合わせ。これでは、間違えるように罠をかけているようなものだ。

間違いにくいインターフェースデザインを


最初に間違いを冒してもそれが間違いだと思っていない場合、後で出る警告は意味を成さない可能性がある ─ これは、前述した通り。では、最初から間違えにくい、ミスを減らせるインターフェースにはできないのか。色や罫線やサイズ、そして手順で、そうした間違いを冒しにくいステップを踏ませることは可能だろう。被験者を集めてどのようにしたらケアレスミスを防ぐインターフェースとして成立するかを実験し、結果を公表すれば、ある程度は常識化できるだろう。既に常識化しているインターフェースも、より間違いを冒しにくい形式へと進化させ得るはず。無論、こうした研究は全世界で行われている。恐らく、そうしたミスを侵させないインターエースという観点で最も進んでいるのは、米軍の兵器コントロールだろう。核の発射ボタンなんぞは、典型ではないだろうか。だが、研究されていても一般ユーザーの現実に反映されなくては、無意味だ。

少なくとも、右クリック・コンテキストメニューまで標準になった現在のMac OS Xのほうが、WindowsよりもGUIインターフェースとして洗練されていることには、異論はないだろう。あとは、キーボードのDeleteキーを別な場所に独立させることくらいだろうか。MicrosoftキーボードはDeleteキーが巨大なのがあるけれど、あれは全くの逆さまで、核ボタンのようにうっかり防止カバーがあっても良いくらい。そんなことにも気づかないのだから、ソフトウェア上のボタンのサイズや配置など、気配りが届くわけがない。かくて、Windows、PC/AT全盛の今、次々とうっかりミスを誘発する罠がユーザーに襲いかかるというわけだ。まぁしかし、開発費を出す御偉いさんが自分で端末を扱わない限り、そこが罠のような状態でできているなんて、問題にならんのだろうなぁ…。

─ 12月12加筆─
なぁんとまぁ、端末のみならず東証側にも伏兵が潜んでいた。上の記述は最初にミスを誘発しないようにという観点からのものなので、特に論を改めるところはないのだが、受発注の敷居をまたいだフェールセーフの取り決めが守られていなかったのか、わけあってそういう仕様なのか、それとも見落としたのか…。今後の調査の結果が待たれる。