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Monday, October 31, 2005

イギリスのZenonというデジタルリソースの会社が発売している製品の中に、撮影用の面光源を簡単に得られるMagneFlashがある。これは、とても賢い撮影照明器具で、フォトグラフは光画であり、光で撮るものだと書いてきたが、この製品はそのことを熟知した上で作られていると感じる。
MagneFlash 68Plus
MagneFlashは発光光源や回路を含む筐体と、その光を隅々まで送るパネルが一体となったもの。私が今回手に入れたのは大型の68Plus。実測20×13.5cmの発光面は、比較的エッジを立てたい被写体に対してパワーのある面光を放射する。また、オプションのディフュージングボックスをベルクロで装着すると、さらにソフトな面光源となる。これを初めてSteve's Digicamのアクセサリ評価記事で見たときには、心底感心したものだ。


Hi-Lo Switch
若干斜めの光で立体感を出したいときには、光源が左右及び中央に三分割されていて、夫々にパワーをHi・Loの二段階で変更できる。

電源は充電式で、全放電からのフルチャージ公称所要時間は10時間。発光回数はフルチャージで公称300回+とあり、想定できる一般的な用途には十分以上。同調はX接点の他、赤外線でも同期し、コンパクトデジカメの小さなストロボ発光部を覆える赤外線フィルタが同梱されている。発光部にこのフィルタを貼ってやると、コンパクトデジカメのフラッシュの代わりにMagneFlashを利用できる。

特に露出調整機能があるわけではなく、f5.6+@1.5m/ISO200のパワーで光る。試しにフラッシュメーターで計測すると、ISO100・1mでf5.6、2mでf2だったから、GNは4〜5.6。これだけ見れば、ほとんど補助光源にも満たない弱い光のように思うだろう。

だが、ここに、銀塩のノウハウがデジタルにまんま通じない一つのタネがある。GNが弱かろうが、或は僅かな光だろうが、光があれば感じるのが受光素子。天文のノウハウからすると、セルが感じる光子エネルギー量は銀塩よりもはるかに小さい。だから、銀塩では手で長時間ガイドしても点になった星が、デジタルではオートガイドをかけても、僅かな振動で変形する。銀塩では簡単に感光しないから長時間露光が必要だったのだが、デジタルでは僅かな光でも感光してしまうのだ。受光素子にはそれなりの光エネルギーが必要だと言うが、例えそのエネルギー量が微弱であっても反応するというのは、天文以外の分野では聞かないセオリーだから、まだまだデジタルフォトの基礎的な理解は十分に進んでいるとは言いづらい。天文写真の分野は、冷却CCDでデジタルを一足先に深く掘り下げてきたのだ。

さらに、離れた被写体へ光を届かせることや、絞りで被写界深度を得たいと考えるなら、ガイドナンバーの大きな明かりが有利だが、デジタルでは回析効果が出てしまうことから、ピントがシャープに出るのはf8〜11程度までというセオリーもある。

つまり、50cmまで近づいたときにこの最もシャープな絞り値を得ようと思うと、既存のストロボではパワーがあり余ってしまうし、小さな内蔵ストロボでは狭い手前側がピーキーに飛んで、周辺がやたらと暗くなる。当然、影も汚い。或は、ポートレイトで背景をぼかしたいのに、ストロボが強くて絞りを開けないなんてケースだって、稀ではない。

よしんば壁や天井でバウンスさせることのできるクリップオンストロボだったとしても、今度は反射させた壁や天井の色が影響してしまうことがあるから、どこでもバウンスとは行かないし、縦横どちらへも首の振れるストロボは、限られる。ハンカチでディフューズしたり、バウンス板などを利用する手も否定はしないが、経験から言って、バウンス板を使う以外は、面倒なわりに僅かな効果しかない。

Diffuser
そこで、MagneFlashの出番となる。これを使えば、小型デジカメなどでのポートレイトの影は奇麗になるし、面光源だからテカったディティールが飛ぶこともない。ディフューザーを使えばさらに柔らかな光が、いとも簡単に得られる。MagneFlash68Plusの色温度は色温度計実測5100°K。公称は5600°Kで、これは恐らく光源の直接値を記述しているのではないだろうか。5100°Kは若干ワームトーンだが、ポートレイトには好適な、自然な光だと言って良いだろう。

無論、このような光の代わりに、オートストロボをパラソルバウンスやディフュージングボックスへ突っ込んでやるような手がないわけではない。ないわけではないが、ひょいと簡単・気楽に撮っているというよりも、素人の目には大げさに“凝って撮ってる”ように見えるのではないだろうか。それに、普段でもパラソルレフやライトスタンドを持って歩くだろうか?? MagneFlashの手軽さと効果の大きさは、他の手法で得られる結果の比ではない。(いずれ作例もアップするので、しばしお待ちいただきたい)わずか350グラムの道具を一つ、カメラバックにしのばせておくかどうかが、運命の分かれ道になる…かも知れない。

十分に理解して適切に使えばプロフェッショナルな仕上がりを得ることもできるし、コンパクトデジカメしか持たないパパでも、内蔵ストロボに赤外線フィルタを貼ってMagneFlashを発光させて撮れば、子供の誕生日や七五三の写真は見違えるようになること、請け合いだ。極論すれば、フラッシュのある携帯電話のオマケ機能で撮ってさえ、仕上がりは格段と良くなるはずだ。無論、一般には一回り小さなMagneFlash57で十分だし、これでも面倒ならもっと小さなMagneFlash Veeでも良いだろう。光は拡散されて柔らかになるし、赤目も緩和される。

残念なのは、日本には全く代理店や取扱店がないこと。今回、私は英国のBecham DigitalのインターネットWebサイトで購入したが、メーカー曰く「日本からの初めての注文」だったそうだ。「世界各国から受注しているが、日本はデジタル写真がポピュラーだから、期待しているんだけど」というメールを頂いた。Beckam DigitalのWebサイトで購入しての個人輸入はさして難しくない。発注してから2週間ほどで、郵便で届いた。ちょっと気長に待つようだけれど、その甲斐はあるだろう。

あなたがほんのちょっとの工夫を惜しまず、周りの皆が撮った写真に差をつけたかったら、手に入れる価値はある。光を操ること=良い光画を撮ることの第一歩、なのだ。