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Wednesday, November 11, 2009

リコーからアナウンスされた新しいデジカメ、GXR。その全貌をつぶさに眺めながら一夜が明け、このカメラがいかに革新的か、そのイメージが私の頭の中でクリアになってきた。

高い? いや、むしろ割安かも

先ず、新聞報道で同社が、将来防水カメラや天体撮影カメラになるユニットの開発を検討していることが明らかにされた。カメラとしてのみならず、プリンター機能やプロジェクター機能を載せる計画もあるという。28〜300mmズームレンズも来年5月リリース予定というから、既に相当なレベルまで突き詰め、将来に渡る商品ビジョンが確立されているように感じられる。

レンズを交換するというフィルム時代の発想は、マウントなどの僅かなたわみなど、誤差が許容された時代の名残なのかも知れない。むろん、ある程度の性能マージンを持たせたり、素子に集光レンズを宛がうなどの手をうてば克服できるのだろうし、実際、DSLRはそうして成立しているのだが、そうしたコストに対して、一体型はまるで、瓢箪から駒だ。

言わずもがなの埃対策に加え、一つには、偽色やモアレの解決。デジタルにつきもののローパスフィルターをレンズごとに最適化できる。一つには、光学的な側面で、無理なく小型化したレンズ設計が可能になる。ひいては、レンズと撮像素子を一体とし、撮像素子とセットでミクロン単位で調整してベストとすることが、逆に高性能とコストダウンの両立につながる ── こんな大胆な発想が、GXRの根本にはありそうだ。ここで言うコストとは、単にメーカーにとってのコストのみならず、自ずとユーザーにとってのコスト・パフォーマンスでもある。

実際、フルセット185,190円(某ネット店調べ)。VF-2なし146,400円。ボディユニット 49,799円(Amazon)。24〜70mm 1/1.7in・1000万画素 39,799円(Amazon)。50mmマクロ 23.6mm×15.7mm1230万画素74,800円(Amazon)は、第一印象では高いと感じたが、一夜を経た今、それで得られる性能を考えれば割安ですらあり得ると感じている。Zeiss ZEなどをDSLRに装着することを考えると間尺に合うし、EFレンズの高性能Lクラスはそんな値段ではないではないか、と思ったのだ。

ユーザー一人ひとりにとっての高級機

もちろん、そこで引き合いに出してきたレンズ群ほどに高性能でなければ全く間尺に合わない話なのだけれど、このメーカーが「生産にあたっては、レンズ群の光軸や撮像素子の傾きをミクロン単位の精度で調整。画像のすみずみまで優れた光学性能を確保したうえで、撮影者の手元に届けられます」と、まるでオーダーメードのようにまで言うのだから、期待して良いだろう。実際、GX100のピントが甘くて調整に出し、戻ってきたらベツモノのようにシャープになっていて呆気にとられたことがある。GXのレンズは以前、Webサイトの開発者談で、そのアクロバティックな移動について熱弁されていたように記憶していて、さもありなんと思ったものだが、つまり、それほどシビアなのだ。

高価ながらもコンパクトカメラという路線には、過去、例えばミノックスやローライ35に見られた舶来神話依存の高級路線があった。今、このリコーが打ち出そうとしているところは、それとはまた違う、モノの見定めに長けたユーザーの価値基準に叶うところで、写真を撮るという目的を、いつでもどこでも考え得る最良の妥協点で達成するためのコストなのだと、GXRでは感じられる。Zeissというようなブランド名でなく、一眼レフのような培われた囲い込み市場でもなく、ひたすら、ただ写真だけを考えた路線。それは、リコーだから挑める、実に不思議な空間ですらあるかも知れない。

24〜70mm のズームで考えれば、機動性優先。必然的にボケ具合よりもピントが合っている可能性の高さが重要だし、手ぶれ防止機能も必須。収納時のコンパクトさが求められるところに、既に製品として市場を得ているGX200とGRIIIの良いとこ取りをしたユニットが来るのは、分かりやすい。二種類のコンバーターレンズ、TC-1DW-6もGXから引き継いでいて、既に持っている場合はそのまま活用できる。これらを合わせておおよそ、一般的な撮影領域はカバーされる。LC-1で大ウケの開閉式キャップのギミックが、LC-2として受け継がれたのも嬉しい。

なお、世の中にはズームの焦点距離を使い分けきれないなどと仰る方もあるようだが、リコーのデジカメにはステップズーム機能がGXから備わっており、マイセッティングでレンズを何ミリで使うかを指定できる。この機能はもちろんGXRでも踏襲されていて、設定指定すれば単焦点レンズを使うのとさして違わない。

一方の50mmマクロは、SIGMAがdp1 dp2で切り開いたところへ、写真のファーストセオリーである35mmカメラで50mm相当が「標準」という、極く自然な第一歩から足を踏み入れたようなもの。このユニットはHD動画にも対応して、表現ジャンルを広げている。イメージスタビライザーが入らなかったのは惜しいけれど、それも使い方次第。実際、筆者もZeiss 85mm ZEレンズでは手ぶれ防止が云々とは感じていない(レンズの性能がそんな要求を吹き飛ばす)。重量・性能・価格のバランスと実現性・市場性を鑑みて落ち着いたところなのだろうと、理解しておきたい。

そして、ボディ本体に相当するユニット。ここでは、些細なことだが、ボディ上面のパワースイッチがスライドスイッチになっているのが、不用意に押してしまわない行き届いた配慮として目に止まった。こんな些細なところに気が回っているということは、他については推して知るべし。GXやGRではシャッターの反応具合を好みに合わせて調整するレリーズボタンアジャストサービスまで実施しているほどで、当然、GXRでもそうしたサービスが実施されるだろうから、もはやセミオーダー。言ってみれば「ユーザー一人ひとり、それぞれにとっての、自分だけの高級機」だ。

物足りない超望遠は、来年5月には300mmまでのズームが出るそうで、望遠撮影時のホールディングに必須の液晶ビューファインダー VF-2が最初から用意されているのが心強い。新聞報道によれば、天文撮影や水中撮影などにも対応できるようにして行きたいそうで、期待するところ大だ。

酔狂かも知れないが、例えばトイカメラユニットやピンホールカメラユニットなんてものだって、考えられないわけではない。が、私は、両ユニットを遠隔でつなげたらと思うのに加え、酔狂ついでに二眼レフユニットにも期待してしまう。ミラーを移動させて液晶モニタと光学ファインダーを切替えられる ─ それも、上からと後ろからの双方向で ─ などしたら、最高。ついでに、往年のリコーフレックスの銘板をおでこに貼って欲しいものだ。キャンディッドフォトグラファーがいつも首から下げておきたいと思うおしゃれ着カメラ的存在になること、ウケアイである。

デジタルの新しい窓

このカメラの出現は、Olympus Pen E-P1のリリース時、私が疑問を投げかけたマイクロフォーサーズに対する、リコーの見事な回答でもある。そこで一線を画しているのは、やはり写真という文化をどこまで深く理解し、愛するか。例えば、写真とは光と影の織りなす光画だから、直接照射するストロボはやむを得ない時の間に合わせに過ぎないことを、リコーは理解していたのだろう。だから、間に合わせ用の内蔵フラッシュに加え、バウンスライティングが可能なGF-1という外部ストロボをオプションに用意した。一方のOlympusが用意しているFL-14はバウンスできないが、これは、結果に雲泥の差をもたらす違いなのである。

二度と出会えない瞬間を、その時そこにカメラを持っているという最初のボタンから、あらゆる条件を加味して最善の結果として切り取り、保存できることまでが、先ず優先。その「最善」が、ちょっとやそっとの最善ではない次元で初めて、人は携帯電話のデジカメ機能では駄目なのだと思いはじめる。もうちょっとあぁできたら、こぉできたらと感じるようなところで、痒いところに手が届くか。GXRは、GXやGRで培われた信頼を礎に、今、フィルム時代の呪縛を解き、未来に向かって放たれたデジタルの新しい窓のように見える。

ここから先は、実機を手にして撮影して見てからでないと、無理。GXRボディを予約購入するGXRロゴ入り特製本革ストラップが貰えるキャンペーンもあるとはいえ、さて、問題は懐具合だ…