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Thursday, September 11, 2008

10日、SONYはα900の10月23日発売を発表した。2460万画素35mmフルサイズCMOSセンサで推定33万円という、ハイコストパフォーマンス。A-D変換の14bit化で差別化しているCanonに対し、一般的に明瞭な差別化製品だ。だが、αには決定的な弱みがある。

暖簾

弱みとは、言うまでもなく“ブランド”。PanasonicのNationalがストロボなどの製品で販路を持っていたのに対し、SONYはカメラ店の店頭にあるブランドとしては比較的新参者だ。コニカミノルタからのカメラ部門買収だったとはいえ、ミノルタとは似付かないデザインに、流れ込んだDNAが嫌でも感じられる。α900がminoltaのブランドで出たら良かったのに、と囁く方々がおられるが、私もそう思う一人だ。

αレンズもまた、ブランドヴァリューができていない。ロッコールやヘキサノンといった知れ渡ったレンズブランドでないところも弱点なら、ツァイスに頼らねばならないところもまた、弱点だ。

人は、ブランド名に弱い。幾ら頭で同じ物だと分かっていても、Leicaと書かれたデジカメのほうに数万円の対価を支払う。α900もSONYのエンブレムをminoltaに書き換える限定品を出したら、売れたりして…。そう、minoltaというカメラの暖簾を引き継いでいないのは、想像以上に大きな事なのである。

ツァイスレンズ

ブランドは置いておいて実質を見ると、メーカーサイトなどで見る限り、実に魅力的なDSLRだ。重量僅かに850gr.(電池別)の高剛性マグネシウム合金製ボディに、35mmフルサイズCMOS機最大の、総画素数約2570万画素撮像素子で、30万円台の価格。ツァイスレンズを2本奢ってもEOS 1DsMk3の価格でお釣りがくるのだから、凄い。

αレンズやツァイスレンズのラインアップを見ると、CanonやNikonに及ばないが、そうしたレンズは、ある意味特種なジャンル。ツァイスレンズで使える範囲での撮影用と割り切ると、ニュースなどで報じられているように、ハイアマチュアというターゲットが浮き上がってくる。そして、そのターゲットを見透かしたように、サイト作例には二点のポートレイトが掲示されているが、どちらもツァイスレンズによるものだ。

実は、必ずしもツァイスだからといって成功するとは限らず。有名ブランドだから認められるというわけでもない。その例はCONTAX。YASHICAがツァイスレンズをラインアップして売っていたが、京セラに移った後、惜しいことに消滅してしまった。CONTAXは、私も一通り揃えての使用経験がある。レンズは良かったが、New F-1発売時にCanonへ鞍替えした、その理由は、すぐなくなる電池と良く狂う露出計。閉口しきって、レンズのクオリティだけでは駄目と判断したのだった。だから、CONTAXの二の舞を避けるにも、αとして築いてゆくのであろう信頼性は非常に大きな課題だろう。

耐久性と重量

その課題の耐久性で、カタログスペックから分かる目立った差異はシャッター耐久回数。EOS1DsMk3の30万回、Mk2の20万回に対し、α900は10万回。このシャッターの耐久性と価格で見れば、Mk3とα900の価格差にほぼ比例する。α900を10万回のシャッターで3台潰して買い換えるなら、Mk3に並ぶというわけだが、実際には、撮影中に使い込んだ機材が故障する率の反映という見方もできるだろう。そう考えると、「絶対に撮影できないと立場のないプロには、丈夫な機材が必須で、重量増もやむなし」なんて思ったり、「中判クラスなんだから」と自分に言い聞かせいつつも、EOS1DsMk3の1210gr.やMk2の1215gr.に対してα900の850gr.という軽さは羨ましい。だってねぇ、量り売りじゃあるまいし…。

実際問題、デジタル化したことからノートパソコンを一緒に抱え回ることになり、益々機材の総重量が増えているのだ。かつてNew F-1からEOSになった時にレンズもFDからEFとなり、高性能のズームレンズが増えたのでレンズ本数が減らせた分軽くなると踏んだのだが、どっこい総重量は却って増えてしまった。それがデジタル化でフィルムという荷物が不要になった分だけカバンの容積は稼げるようになったし、鉛入りのX-RAY防御袋も不要で軽くなるかと思いきや、パソコンという重量が加わった。現場でディスクに焼いて渡すことを考えるとオプティカルドライブ付きのノートパソコンが必須だから、そのトータルの重さたるや、尋常ではない。この面では、益々重量挙げ、体力勝負の世界になりつつあったのだ。

軽く・強く、という欲求は、担いで回ることが前提となるフィールド機材には必ずつきまとう。耐久性のない機材は、いざ撮影という時に故障していたら、その撮影行を「そこまで粗大ゴミを運び、また持って帰る」という行為にしてしまう。プロならただのマヌケだし、アマチュアでも悔しいったらないだろう。フットワークを活かしてまだ見ぬ視点から新鮮な画像をモノにするなど、とにかく“良い写真”を撮るには、描写性能だけではない要素が影響する。そのような耐久性による信頼は、決して、ポッと出て得られはしない。長い経験のうちにのみ培われるのだから、SONYに変わってから日の浅い機材には求めるべくもない。

評判

実は、αでは一台、とある御仁が落としてしまって撮影不能になったのを知っている。私も10歳からの写真人生の経験上、落としたことが無いわけではないが、撮れない状態になったことだけはなかったから、なんとか動かんのかなぁ、と感じた。「現場についたら壊れていた」経験はあるが、それは落下などによることではなかった。

余談だが、寒冷地でもハッセルだけは動いたなどと、大昔は良く噂されていた。だが、実際に氷点下20℃以下の世界に持ち込んで、私はこれが噂に過ぎないと、身をもって知らされた。巻き上げギアが縮んで、かみ合わないのだ。やむを得ずフィルムを撮影終了時のように適当に巻き上げて送り、撮影したが、山勘なのでカットの間隔は悲惨なものだった。電子制御系の事も含めて、氷点下45℃でも撮影できたのはCanon EOS1だけだったという、そんな経験をしてしまうと、安易に他のカメラに乗り換えるわけには行かなくなる。そして、そうした逸話の積み重ねで与えられるのが、時間をかけ、歴史として培われる信頼性の証ともいえる「評判」なのだ。

逆に、Canonといえども、そんなユーザーが抱く信頼性の上にアグラをかくようなことがあれば、一瞬で歴史は変わってしまう。それは、食品関係で最近頻発する偽装などの事件にも通じることだ。

期待

α900のリリースは、これから先、同じカメラでもよりシビアなニーズのジャンルで歴史を積み上げてゆく、そのスタートラインにSONYブランドのカメラがついたということだ、と言って良いだろう。プロにとってのα900は、もし耐久性があるのなら、コストパフォーマンスと軽さで選択肢に入ってくる。さて、この35mmフルサイズ素子ボディのジャンル、カメラはどこまで、大解像度化や階調表現を豊かにするといった改善を施して行くのだろうか。α900を迎え撃つNikonとCanonの動向も興味津々なら、αの今後にも期待するところ大なのである。なんせ、2460万画素35mmフルサイズCMOSセンサで推定33万円…これだけ見るなら、凄い魅力なんだけどなぁ…

SONY α900 Webサイト