Skip to main content.

Tuesday, March 25, 2008

悩みに悩んだコンパクトデジカメ

GX100 正面

以前、このblogでNikon Coolpix S51の購入顛末を書いた。カメラとしてはさほど良いカメラではないが、その小ささの割に「弘法筆を選ばず」よろしく、それなりの絵は作ってきたつもりだ。ところが、春になって花が咲き出すと、ストックとしての植物を押さえておくにはどうも役不足に思えてきた。最大のウィークポイントはRAWモードで保存できないこと。非可逆圧縮のJPEG画像を用途に合わせて再処理すればどうしても画質が落ちるから、ストックとしては見劣りする。そこに降ってわいたSIGMA dp1の発売で、くすぶっていたRAW撮影のできるコンパクトデジカメを、という思いに火がついた。

そういう成り行きだから、買うべきはSIGMA dp1だろうと、さっそくSIGMA dp1に関連したサイトをサーフィンし、撮影された画像も散々拝見した。だが、どうしても納得が行かない…。結論はリコーのGX100で落ち着いた。

dp1 ─ どうして28mm単焦点?

広角系単焦点レンズを備えた中判カメラというのは、非常に伝統的な存在。ハッセルのSWやカンボワイド、リンホフや今は無きプラウベルマキナの69プロシフトなど、名機と呼びたい機種ばかりだ。撮像画素数が1400万ともなれば中判645に匹敵するから、歴代のカメラでお仲間を言うならフジの645Wか。

そうしたカメラはしかし、レンズ交換可能な他の機材に対して広角や超広角で不足する被写体中の一つひとつの対象を構成する情報量を大判フィルムで稼げることや、レンズを交換しないことで内面反射など細部にわたって完璧に詰めた結果として図抜けた描画性能を誇って、存在を認められていた。つまり、この分野に入ると敷居はとても高くなる。これはリコーのGRも然りなのだが、そういう目でSIGMA dp1を見ると位置づけがどうしても半端に思えるのは、私だけだろうか。

先ず、広角系で高性能と言うのであれば、24mm程度よりは短焦点であって欲しいように思う。28mmでは物足りないし、他の機材にプラスアルファで持つ価値も薄くなる。一眼レフのレンズを交換して得られる広角画像よりも優れていて初めて、レンズ一体ボディ広角専用機としての値うちがあろうというもの。できるならハッセルSWのように歪みが極めて少ないか、他の機種のようにアオリができても良い。何か差のつくところが欲しいのだ。GRもdp1も歪みについては良く詰められているのだけれど、28mm相当であるところがいかにも惜しい。もっとも、GRには21mm相当のワイドコンバージョンレンズがある。

広角専用+コンパクトというコンセプトを言うなら、もう一つ。撮影の目的物は必ずしも広角で構図が成立する対象ではない、ということがある。それを乗り越えて専用機ならではというとき、そこには必ず並行して他の焦点距離のレンズを備えたカメラが存在する。レンズを変えていたのでは間に合わないこともあるが、焦点距離を違えたレンズを装着したカメラを複数台、ストラップの長さを変えて首から下げるのは、そんな成り行きからだ。だから、今日、ズームレンズの性能が上がったことも考えると、コンパクトデジカメで敢えて広角専用機を選ぶというのは、分からないではなものの、価値を見いだすのが非常に難しい選択だろう。

トリミングするったって、ねぇ

そんなこんなで、先ず28mmだけで用が足りるのか、という自問自答が続いた。

一つの理屈は、高解像度だからトリミングすればレンズの焦点距離を変えるのと同じことだ、ということ。これは古くはローライフレックスが建前にしてきたことで、高画質80mmレンズ一本だけれど35mmなら望遠系ということだ。確かにトリミングはそういう具合に働くが、28mm 1400万画素の画像を56mmの倍にしたら700万画素…じゃあ、ちと寂しい。トリミングが望遠として機能するという理屈は、リーフの4000万画素くらいになれば堂々たるものだけれど。

それに、dp1のRAW画像を1400万画素相当で現像した場合、FOVEONの長所たる色表現の理屈はどうなるんだろう、とも思う。そうすると、4,688,736画素の半分で234万画素…かなぁ、というわけで、なんだかますます寂しくなってくる。

一方、トリミングという前提を除いたら、今度は広角だけで用の足りる被写体ばかりか、という問題に直面する。街でスナップしていると特に、背景を整理したり、人の顔をぼかして肖像権に配慮したりといったことができにくい。そもそもカメラを持った人間が撮ろうとしているのだから肖像権を言うくらいなら顔を隠すとか逃げるとか怒るとかしてくれよ、と思うけれど、今は公表した後で、本人のみならずどこかから文句が出てくるご時世だから、昔のように自由にスナップするわけには行かないようだ。ちなみに、ミレニアム記念の世界写真コンテストで撮影したときには、主催者の方針で、被写体となった人々から肖像権についての合意書にサインを貰った。

…ともあれ、そんなわけで、コンパクトデジカメというカテゴリの用途に対して広角単焦点レンズだけで用が足りるとするには、やはり無理があると思う。

FOVEON X3

もう一つのdp1のアドバンテージがFOVEON X3。この撮像素子の子細な説明や優秀さについてはその専用サイトに譲るが、非常に魅力的な撮像素子である。それは、ちょうど優れたフィルムを選ぶのに似ていて、確かに色に深みがあるし、ラチチュードも広い。

だが、技術がいかに優れていようと、結果の写真にそれが反映されないなら、無意味。色の深みが云々といったところで、ではプリントアウトなりでその差異が再現されるかというと、他の多くの要素も絡んでくるから、ストレートにそれが再現されるとまでは言いにくい。さらには、写真が良いかどうかと、色が良いとかシャープだとか歪みがないとかというのは別な次元の話で、後者だけが課題ならテストチャートが全てになるだろうし、そればかりを言うのはナンセンスで本末転倒だろう。

RAW現像で調整するのに、今のところそれでしかできない専用アプリがWindowsでしか動作しないのも、私には問題だ。Windowsマシンがないわけではないけれど、Macに宗旨変えして以降、それほど微妙な作業をやるようにまでは調整していないし、できることなら使いたくない。Silkypixのような他のアプリが対応してくれれば良いのだけれど、今はまだだから、判断としては時期尚早だ。

それに、「dp1のRAW画像を1400万画素相当で現像」と前述したが、そうすると三重に存在した色データは普通の撮像素子の結果同様に広げられるという意味になるのだろうか。そして、そうしてもなお、FOVEONの飛び抜けるほどの優位性はあるのだろうか。そうした現像結果を掲載したサイトも拝見したが、ブラウザでの閲覧範囲では、最終判断は下せなかった。

素子の1画素あたりの受光量は面積が広いほど多いのだから、そりゃあFOVEONを使ったdp1のほうに優位性があるのは当然だろうけれど、ではGX100やGRなどがそれを大げさに言う必要があるほど劣るかと言えば、ちょっと違うだろう。それは、「dp1はさすがにラチチュードが広いですね」「dp1のレンズは良いですね」という結果と「良い写真ですね」というような感想の間にある違いでもあり、dp1でなければ見るに堪えない、などということはあり得ないので、そこまでの優位性はなかろうと思う。そして、それでもなお、FOVEONの原理と目指している理想は良く分かる。だから、SIGMAには頑張って欲しいと思うのだけれど…。

撮像素子のサイズとMTF特性グラフ

dp1とGX100の比較で大きなポイントとなったのは、もちろんレンズ。どちらも優れたレンズなのだろうとサンプル画像で推測はつくし、多くのユーザーがそれぞれサイトにアップしている写真を拝見しても、ばらつきも小さいように思えた。こうなると比較する上での最後の頼りはMTF特性になる。ちなみに、こっそりもう一つの候補だったLeica D-LUX3やPanasonic Lumix LX2はMTF曲線は公表されていないのか、見つけることができなかった。

サイトに掲載されているそれぞれのMTF特性グラフを画像として取り出して、XY軸の単位長さを合わせて調整しようとして、手が止まった。妙にリコーの性能が劣る。良く見ると、なんと、リコーのそれは50本/mmと150本/mm。SIGMAはCanonなどと同じく10本/mmと30本/mmなのだ。これでは単純比較できない。なんでリコーはそんな単位なんだろうと考えるまでもなく、答えはすぐに分かった。その鍵は撮像素子サイズ。GX100は1/1.75インチで、この面積を35mmフィルムの面積に比べると、5倍くらい。だから、MTF特性の測定単位がそうなっているのだ。

そうすると、大きいとはいえフルサイズでないSIGMAが10本・30本で表示している値は、少々さっぴいて比較してやらないと不公平。私は、おおよそ同等程度ではないかと推察した。35mmフルサイズ相当で見れば本当に凄いレンズだと分かるMTF特性曲線だけれど、素子の面積は大きいとはいえ35mmフルサイズよりは小さいのだ。

レンズが良いと評判のSIGMA dp1だから、MTF特性の線数を撮像素子比率で増やして劣るかどうかはやってみなけりゃ分からない。だが、こうして見れば少なくとも、リコーがいかにこだわり抜いてこの製品を生み出したか、そして、いかに自信を持っているか、は分かる。SIGMAがdp1に搭載したレンズは確かに各種歪曲などが非常に良く補正されているし、シャープでもありそうだ。だが、リコーのレンズだって負けてはいないようで、私は、少なくともイーブン程度の、いずれも優れたレンズ性能だと推測した。

私の結論はGX100

以上、色々と御託を並べてきたが、つまるところ中判相当と考えるのが妥当なdp1の広角専用と、解像度だけは一応1000万画素超のGX100の開放F値が変わる3倍ズーム(画質の犠牲は少ないだろうと思われる)で、いつもポケットに入れておくような用途にはどちらが適しているか ─ やはりGX100だ。

dp1はDSLRの補完として持っていればそれなりに役立つ時もありそうだが、そのような用途なら筐体はもっと大きくても構わないかも知れないし、画素数だってもっと欲しくなる。広角専用なら専用で、用途次第ではアオリも、せめてティルトくらいは効いて欲しい(レンズでアオるのとアプリで曲げるのとでは、像を形成している情報のありようが違う)。

加えて、dp1の一つの恨みに、発売まであまりに時間がかかったということがある。周囲を取り巻いている状況が、フォトキナで発表された頃とはかなり違っていて、dp1の優位性はあるにせよ、データの保存に要する時間など細かいところで時代的な許容値のズレを感じているというユーザーのレポートをほうぼうのwebサイトで読むにつけ、そうした細部が惜しまれてならない。恐らく、それほど御しづらい撮像素子なのだろうし、コンパクトデジカメとして一般ユーザーに対して裾野を広げるには、優位性のアピールが難しいということもあったのだろうけれど…。もう一つ、手ブレ防止機能が備わらないというのも、今時のコンパクトデジカメとしてはマイナス要素。ファインダー別売りで普通はモニタを見ながら撮影するんだろうという設定なのだからなおさら、手ぶれ防止装置は必須なのだ。逆に、光学ファインダーが標準でモニタは撮影済み画像を見るだけというのなら、手ぶれ防止装置がなくても顔に押しつけていられるから、ある程度は妥協できるかも知れないが…。

Leica D-LUX3やPanasonic Lumix LX2は、パス。プロが持つならLeicaでしょうと言う既成概念と、頭で理解しているLX2は実質同じカメラだという事実に、私の中で折り合いがつかなかった。Leicaは倍も違う金額に妥当な理由付けが出来ない。LX2は凄くお買い得な良いカメラだというのは分かっていても、半世紀も生きた人間に染みついたブランドの概念が、赤い丸があるかないかだけで同じものだという理解に、生理的に抵抗する。持っている間ずっとそんな思いが交錯するのでは、精神衛生上よろしくない。つまり、両成敗でパス、というわけだが、実売価格次第では、LX2はお買い得度の高いカメラである。

GX100に決めたと言いながら、これほどdp1のことばかり書いているのは、私自身、まだまだdp1に未練があるからだ。だから、GX100でこれから撮ってゆく写真が、この選択を確信に変えてくれるよう、今は祈るばかり。だって、コンパクトデジカメばかりゴロゴロしていたって、しょうがないじゃないか。本気で撮るときにはデジイチEOS1Dsを担ぎ出すのだし、2台も3台もポケットに入れて出かけてもいられない。

GX100 VF-1装着時

リコーのデジカメはDC-1やDC-2を取材に拝借してお世話になって以来だ。さわっていると、未だに、DC-1の頃に思った“写真を始めた頃の写真を撮る楽しさが蘇る”感じで溢れている気がする。加えて、VF-1で上からのぞき込んで撮影出来たり、デジタルならではの応用性を確保するなど、やはり地味でも根本のところで撮影するということを真面目に捉えて、その王道を歩いているメーカーなんだと思う。さて、これをポケットに春の街へ犬の散歩に出てみよう。


ちなみに、今回はメディアラボNEXTから購入。随分前に数台買ったことのある、信頼できるインターネット販売店だ。