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Monday, June 11, 2012

今や、「レンズ沼」という表現がカメラマニアの間で一般的になったほど、オールドレンズを最新のデジカメに装着する楽しみが広がっている。

一口にオールドレンズと言っても、様々。上はスイス製Kern Paillard switarといったシネレンズの名品から、下はOEMの見知らぬレンズまで、文字通りの玉石混合だ。

ミラーレス一眼とM42

シネレンズが使えるのは、SONYのNEXのようなカメラ。或いは、より小さな撮像素子の機種なら、Cマウントのそれらでも十分なイメージサークルが得られる。ナンチャッテ一眼のミラーレス製品群は…

フランジバックが短いので、マウントアダプタを介して多くのレンズの装着・使用が可能となった、というわけ。

ところが、カメラボディ側のほとんどは撮像素子を動かす方式の手ぶれ防止機能ではないか、他社レンズでは使用できない仕様になっている。つまり、手ぶれ防止機能が得られなかった時代へ、レンズともども戻ってしまう。そんな中で、PentaxのK-5K-rは、ミラーレスではないのでフランジバックも長いが、そのまま手ぶれ防止機能が使える。これは、主にM42スクリューマウントだった時代からのPentax愛好者が保持するレンズを無駄にしないようにという、愛好者への配慮溢れる仕様。純正マウントアダプタも販売されているほどなのは、オールドペンタックス愛好者を離さないためとも言えるけれど、時代を超えて培われた、メーカー・ユーザー間の無形の絆でもあるのだろう。

o-gps1

O-GPS1をきっかけに

GPSがカメラに装着できて、位置情報を織り込める ─ そんな機能を持つカメラは、既出だった。Pentaxが凄いのは、GPSとSR(Shake Reduction=手ぶれ防止機能)で動かせるようになっている撮像素子を組み合わせ、天体を追えるようにしたこと。これは、赤道儀など使わず、どこにどう固定しようが、5分程度なら天体を追尾してくれるという機能で、星野写真の革命である。

star shot

▲ 11年12月10日の月食
オリオンと並んで進行する様子を、60秒露光で

そうと知ったら、試さずにはいられない。折から、Canon EOS20Daが既に画素数で見劣りする上に、住んでいる場所の光害が酷くなって、とてもじゃないがディープスカイ画像など望めなくなていたので、20Daを下取りに出して、K-rレンズキットとO-GPS1を入手した。

ところが、このキットレンズ、さすがにキットレンズで、あれこれ情けない。K-rを買って使う方々の普通のニーズに不足はないのだろうと分かるけれど、もちっと何とかならんのか、と感じること、しきり、特に、AFを全く使わない私には、このフォーカスリングはあり得ない。

さらには、ゾーンプレートを楽しまれている大御所の作品で、一体、ナンのためにレンズを装着するんだ、というほどの描写力を見たのにも、大きく揺さぶられた。さぁて、何か適当なレンズはないものか、とググっていてぶつかったのが、ロシア製レンズのIndustar 50-2だった。

Industar 50-2

あっと驚く高性能

散々ググればあっという間に情報通…とまでは言わないけれど、かなり鮮明に分かってくるから、有り難い時代。中古の古い品だから、当然ばらつくわけで、数を買えば一つは当たるだろうという説があったのに頷いて、5本まとめて卸売りという業者から購入した。一番良い一本を自分用とするのはお許しいただくとして、残り4本は、お世話になった方に差し上げたり、原価でお譲りしたりして、すぐになくなった。

with hood

最初の試写で驚いたのは、その性能。キットレンズが情けないのか、Industarが凄いのか、そこには、もはや比較を許容するような次元ではない、大きな差があった。さすがは、テッサーコピーだ。ハレーションなどを嫌って日陰をこさえるとコントラストが上がるようなので、日本製削りだしのフードも買った。このフードの御利益は十分確認できるほどだったけれど、いかんせん値段はレンズ本体の倍以上。どことなく、なんだかなぁ…。

compare at center

▲ ロングショットで、中央部と左下隅の部分比較。あまりの性能差に、愕然。
カメラは三脚固定。SRオフで、リモコンにてシャッターを切った。RAW現像はSilkypix。

Sonnar 135mm

▲ 東独Zeiss MC Sonnar 135mm f3.5

味を占めて

紹介しているサイトの作例を散々見ていたので、そう外れってことはなかろうと踏んでいたが、旧ソビエト製レンズがこれほど高性能だとは、正直、思っていなかった。こうなると、他のレンズにも興味がわく。50mmを手に入れたのだから、長玉と短玉が欲しいよね、というわけで、物色。ロシア製レンズといえども案外それとしては高いと感じるレンズが多く、結局、eBayで見つけた東独Zeiss JenaのMC Sonnar 135mm f3.5とMC Flektogon 20mm f2.8をゲットした。さらに、安かったMIR-1v 37mm f2.8も手に入れて、おおよそ、主立った焦点距離はカバーできるようになった。

MC flektogon 20mm

Zeiss Jenaについては、いずれも、とても良く写るレンズで、とりたてて不満もないのだけれど、20mmはヘリコイド位置が極端にずれていたので、レンズ修理が趣味の友人に頼んで、調整してもらった。持つべきものは良い友なり。

Tessar 50mm f2.8

元祖見たさ

Industar 50-2があまりに高性能なので、そのコピー元だというTessarを使ってみたくなっていると、ちょうどeBayにゼブラの出物があって、うまく競り落とせた。

なるほど、さすがはZeissである。調べると、東西ドイツに分割された際、ソ連軍が現場担当者である多くの熟練工を接収したのだそうだ。一方、米側もZeissの価値は認めていたので、西側でもZeissが存続されたという。詳細はその専門サイトのページに譲るとして、ここに、冷戦と宇宙開発競争でしのぎを削った両国の、光学技術の一端があるのだろう。東独製といえども、ZeissはZeissだったのだ。

そして、その設計をまんま写して、しかもパンケーキにしたIndustar 50-2。この魅力溢れる超軽薄レンズには、鷲の目と言われた鋭さがそのまま。値段じゃないね、レンズは。

MIR's result

▲ 遠距離なら想像以上に良く写るMIR 1-v。

惜しいMIR 1-v

不満もないとは書いたけれど、実は、MIR-1vにはとうとうガマンができなくなった。一つには、星野写真とは無関係だけれど、接写が効かないこと。寄れないなぁ、と感じてはいたが、実は、それはZeiss Jenaのレンズが寄れるから思った、錯覚。とはいえ、寄れるほうが有り難い。

MIR-1v

だが、決定的だったのは、その操作性だ。普通、レンズの鏡筒で一番太いのはフォーカスリング。絞り環は細く、手前か先端にひっそりとしているものだ。ところが、MIR 1-vでは、一番太いのがプリセット絞りの開放・絞り込みを操作する、操作環。フォーカスリングはボディ側にある細い環で、私が慣れているカメラでは、普通は絞りがある位置に、まるで絞り環のように存在するのだ。三脚にでも据えて、動的なものを追うような撮影でなければ、それでも使えないじゃなし、写りは、特に中央部で、とても良い。だけど、操作性ばっかりは、幾らガマンしても、どうしてもミスタッチする。

flektogon and MIR

本当に写りが良いだけに、悩みどころだったのだけれど、とうとう辛抱たまらず、MIRの光学設計のコピー元で、近接撮影もできて評価の高いFlektogonの35mmに手を出した。

二本目のFlektogon

Zeissといえば、DistagonだとかPlannerだとかって有名な名称があり、私も昔、Contaxで使っていた。あの時はボディ側に問題があって、泣くなく諦めてCanonに乗り換えたのだけれど、Flektogonという名称には縁がなかった。ところが、20mmを入手してみて、その優れた性能に目覚めた今、これで35mmを手に入れない手は、ない。なにしろ、MIR 1-vで不満だった近接と操作環の問題が解消されるのだ。

flektogon 35mm

▲ 茶筒のようなケースに入ってきた

eBayで数本を逃してから、やっとなんとか落札したのは、茶筒のような紙製ケースに入ったゼブラ。先に入手していたテッサーそっくりの外観だけれど、とても満足の行く写りだし、操作性も良い。

しかし、何と言っても凄いのは、この近接撮影能力だろう。そのままで1/2倍、18cmまで寄れる。テッサーもIndustarよりは寄れるし、シャープなのだけれど、Flektogonはそのシャープ過ぎるほどのシャープさの「過ぎるほど」がない代わりに、ディティールの奥深い再現性という味わいを持っているように感じる。それはちょうど、Sonnar 135mm f3.5にも通じるものだ。

flowerpic

理屈

フルサイズの撮像素子で計算してみると、仮にベイヤー配列の四つのセンサを一単位とすれば、39単位/mm。フィルムの二点分解能が約40本/mm程度といわれているから、APS-Cや35mmサイズなら、おおよそ、銀塩かデジタルかでは、求められるレンズの性能にはほとんど、大きな差はないと思って良いだろう。もちろん、とてつもない解像力があればそれに越したことはないけれど、価格も青天井だ。

それに、Cマウントのようなイメージサークルの小さな世界なら、マイクロフィルム用のマクロレンズのような超高解像力のレンズもありだけれど、APS-Cや35mmを想定すれば、今のところ、そこまでの性能を反映できる撮像素子を搭載したボディは、限られる。さらに、APS-Cでは二回りといわず、周辺を切り捨てているから、比較的性能の高い内側だけを使うわけで、とっても「オイシイ」ところどりなのだ。

sonnar 135mmf3.5

▲ 李の花 背景のボケも良いSonnar 135mm

レンズ沼?

これ以上続けるとまさに、レンズ沼に落ちそうだけれど、どっこい、有り難いことにとりあえず欲しい焦点距離がほぼ揃ったから、さほど酷い底なし沼には、今のところ、落ちそうにない。何より、私の場合はPentaxボディでSRが有効だという、古くて安くて優秀なレンズが、足りない機能をモダンボディで補って、驚くほどの結果を出してくれるところに、一つの魅力を感じているから、M42に限られるのだ。

100%業務用のCanonに対して、オフにはPentax。リラックスして楽しめるという意味で、ガチガチに純正レンズで固めず、ふらふら〜っと他のレンズを組み合わせていられるのが、嬉しい。AFなんぞがないおかげで軽く、比較的小さいしね。

super moon

▲ スーパームーンを高台の神社から。Sonnar 135mm。
軽量なので担いで登るのも楽。
月が赤いのは、折からの微小粒子状物質による大気汚染のため。

値上がり傾向に感じる潮流

そんなレンズ沼、最近は、冒頭でも述べたようにNEXなどで楽しむ御仁が増えていて、eBayやヤフオクでも値上がり傾向。MC Flektogon 20mmなんて、少々難があったにせよ、もう私が買った半年前の値段では、買えそうにない。それどころか、さらに古い、まさにクラシックカメラに装着されていたそのもののレンズを取り外し、適当なアダプタを介して装着撮影した結果を掲載しているサイトなどを拝見すると、つくづく「一体、今時のできの悪いレンズってぇのは、何なんだ」と思わざるを得ない。

An Apricot tree

▲ 春先の、杏の花。Industar 50-2
RAW現像はDxO Optix Pro7

旧ソビエトとアメリカの、第二次世界大戦後長く続いた冷戦は、Zeissを東西に二分し、その光学機器は、それぞれの国力をかけた宇宙開発やスパイ活動などを支え続けた。冷戦が終わった今、私たちはその膨大な恩恵を、こうしたオールドレンズの楽しみとして享受しているのだとも、言えるのではないか。今後、本当に優れたレンズや撮って楽しいレンズを求める目が、ユーザーの間にさらに広まりそうな予感すら覚える。そこには、MFという選択肢が「あり」なんだという、大きな一つの流れが感じられるのだ。

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写真を撮るという行為が、表現者の自然な動作によるとき、ピントを合わせたり、露出を、機械的な適正のみならず感性的な明暗もふくめて合わせたり、フレーミングや構図を決めたりするその手順が、目的を達成する瞬間までに調和するなら、それこそが快さであり、楽しさなのだ。そんな楽しさを放棄して、常に全部機械に委ねたいだろうか。オールドレンズの静かな流行の裏には、そんな、機械化・自動化に逆らう天の邪鬼のような快感があるのかも知れない。

写真は、人が、光と影でこさえるアート。監視カメラ映像じゃあるまいし、カメラが写すんじゃないからね。


Frickrに掲載の作例

* このページに掲載のレンズ単体写真は、Flektogon 35mm f2.8で。Flektogon 35mmのそれは、Tessarで撮影しています。