○被災後の暮らし  −持久戦において−

●トイレ

 水洗トイレは、水がなければ流れない。下水が破壊されていなければ雑用水で流して使えるが、そうでなければ次のような手がある。

  1. ビニール袋を便器にあてがい、適宜始末しながら使う。
  2. キャンプ用や病室用の簡易トイレを利用する。
  3. 丈夫なバケツやゴミ箱を使う。
    溜まった汚物は、地面に60〜70cm程の深さの穴を掘り、そこへ捨て、上から石灰で厚く覆って埋める。この手法は生ゴミについても同様で、衛生上決してそこいらへぶちまけないようにしたい。

●電気

 電池の予備は、非常用に揃えている器具に合わせて、多めに用意しておきたい。太陽光利用の充電器と充電式電池も、加えておくと重宝しそうだ。電池の長期保存には冷蔵庫を利用すると良い。

 家庭用電気器具を利用するには、発電機を用意しておく手がある。家庭用の小型のものは5A程度の出力しかないので、TVなども小さなものしか稼働できないが、十分に利用価値がある。ただし、使わない時は燃料を完全に抜くか、或いは常に燃料を満タンにして、適宜運転しておくこと。日常的な整備を怠ると、万一の場合にトラブルを起こして使えない。このような機械類については、万一故障しても修理できる程熟知しておくことも大事なことだろう。

 発電機の電気を家庭に供給するにあたっては、器具の安全を十分に確認し、給電してスイッチを入れて異常がある場合には使用を中断すること。私のやり方をここに紹介するが、これは、本人が電気に明るく、家のどこを配線が通っているかを熟知していて、その部分にダメージがないことを把握できた場合に限る。それは、両側がプラグになっている容量の十分で長さのあるコードを作っておいて、これで電気を供給するという方法だ。距離を置くのは騒音を遠ざけるため。必ず大元のブレーカーを切り、消費電流の大きな冷蔵庫などの電源を抜いてから、発電機から引いたコードのプラグをコンセントに突っ込むことで、逆に各コンセントに電気を供給するわけだ。配線によって、供給できるコンセントが限られる場合がある。(この方法で給電して、被害により火災になっても当方は感知しない。発電機の利用にあたっては、各自が自分の責任において、十分に注意するように!)

 なお、基本的には屋内配線にダメージがある可能性があるので、業者によって安全が確かめられるまではブレーカーを落とし、電気の使用は控えるのが懸命である。

●調理バーナー

 キャンプ用のストーブ類が良い。コールマン社製のツーバーナーやスリーバーナーのマルチフューエルタイプが、安定性も高くて便利。マルチフューエルタイプなら、動かせないガソリンエンジンの自動車の燃料を抜いて使うことができる。ただし、可能な限り屋外か、換気に配慮しながら室内の防火対策のされた台所のガス台上などで使うこと。なお、コールマンに代表される加圧ポンプを有するタイプの場合、ポンプのピストンが乾燥してスカスカになってしまい、加圧しづらい事がある。このような事を考え、専用のオイルを組み合わせて用意しておくと良い。また、もし被災した後で専用油がなくてポンプがスカスカだったら、何か油類をそこに塗るか、最悪でもピストン部分を抜いて、ラバーを一旦押し広げてからまた差し込んでやると、短期間だが復活する。

 また、ツーバーナーに関しては、事前に燃料タンクのキャップに自動車のホイールに使うバルブを、ドリルで穴を開けて装着し、自転車用の簡便なポンプなどで加圧するという案もある。これなら、かなり楽に、かつ迅速に加圧できる。

 家が潰れてしまっていて逃げ出す場合には、ツーバーナーは重い。そのような時は、むしろ軽量のトレッキング用が良いだろう。商品の例としては、MSRやSIGGといったものがある。

 これらの道具の燃料は、7〜10日分は備蓄したい。燃料がなければ全く使えないのだから。
液化ブタンや液化ブタン+プロパンガスのボンベを使うものは、平時のキャンプには手軽だが、スペアのボンベの入手が困難で、不向き。それならば、むしろ炭などを使い、コンクリートブロックなどで竈を作った方が、あらゆるものが燃せて良いだろう。

  実は、アメリカにはプロパンガスのボンベからジョイントで連結して、ツーバーナーはもとよりランタンまでを一つのボンベで賄うコールマンのシステムがある。これなら、プロパンガスはやがて充填可能になるだろうし、熱効率も高い。しかし、日本のプロパンガス製品はボンベを固定することが許可の前提になっているため、残念ながらこの製品群は輸入されていない。

●照明

 夜間の照明などに、懐中電灯の類は勿論重要だ。マグライトのような頑丈なライトは特に重宝する。また、両手が使えるヘッドライトも良い。小型のライト類は家族一人に一個以上あるのが理想と言える。

 化学反応を利用しているライトスティック(サイリュウム)は、使い捨てだが電池が切れるなどした場合の最終用具として準備しておくと良いかも知れない。

 ロウソクはマッチと一緒に保存しておけば短時間の照明用として使えるが、裸で使うと余震時に倒れるなどすれば火災の原因になる。必ずなんらかの器具と併用するようにしたい。

 キャンプ用のランタンは暖房と明かりの両方が得られる。予備の燃料や余分のマッチ、予備のマントル、グローブ(ガラスのホヤ)や修理するための部品類を用意しておけば万全。最近主流になってきているマルチフューエルタイプなら、車から抜いたガソリンが使える。ガスを利用するものは、スペアの補給が難しい点が気になる。

 灯油のハリケーンランプと呼ばれるランプも、ストーブの燃料である灯油が利用できるので、組み合わせて考えれば便利だが、今一つ暗い。

 照明用具は各々に長所も短所もあるので、条件や燃料の便に応じて使い分けるのが良いのだが、被災時にはとにかく手元にあるものを使うしかないのも確かだ。

<使うな!>

☆マッチやロウソク、ランタンのような火を使う照明は、ガス漏れの危険がないこと、或いはその危険がなくなったことを確かめた上で、余震に細心の注意を払った場合でなければ使ってはならない。同時に、電気が戻ってもガス臭い場合には換気扇は使わないこと。換気扇の電気回路の火花が引火する恐れがある。これは、発電機を使う場合も同様だ。また、テント内でランタンを使う場合は換気に注意すること。

●暖房

 冬期の被災では暖房が必要になる。が、余震などを考えると火の気は怖い。神戸のある避難所では耐震消火装置がないという理由で、自衛隊が搬入していた柵付きの石油ストーブが撤去された一幕があった。また、学校をあてがった避難所の多くが、暖房を禁止していた。この処置はお年寄りには酷で、体力の消耗を促進させる一因でもあった。

 避難所のような集団生活の場はともかく、テントやまだ暮らせる住宅では、途絶えた都市ガスや電気に替えて何らかの暖房手段が必要になる。薪ストーブや石油ストーブなどが有利だが、耐震消火という点では石油ストーブが優れる。小型のカセットボンベを使うストーブは使える時間が短く、熱量も小さい。

 東北地方にある一シーズン使いきりの薪ストーブは、燃えるもの全てが燃料になり、余震が落ち着いた後は重宝。非常時を考えて、余裕があれば排煙のための煙突を工夫し、常備しても良いかも知れない。囲炉裏程度の面積をあてがえれば使える。

●燃料

 暖房や照明、発電などに燃料は貴重だ。消防法に適合している貯蔵缶でガソリンを保存しておくなどの手段は勿論だが、自動車の燃料を抜くのも良い。車から燃料を抜くためのポンプは必需品だ。車種によっては燃料タンクの底にホースが届かないことがあるので、延長するためのホース類も用意しておくこと。

特に関係省庁などにおいては、非常時の燃料の管理と消費シミュレーションを厳格に行い、補給分の確保を熟慮しておくことが重要となる。神戸では、食料などを運搬するボランティア車両へ給油する燃料など確保されていなかった。

 暖房が石油ストーブなら灯油も、季節ごとに使いきる必要はあるが、冬期は余分を持ちたい。キャンプ用具のホワイトガソリンも同様だ。

 どれと限らず、練炭や炭などあらゆる燃料が、用具と合わせ、或いは工夫して、それなりに活用できる。分かりきったことだが、大事なのは、用具に合わせて用意することと、相当量の余分を持つことだ。また、室内やテント内で炭を使う場合は換気に十分配慮するようにしたい。

●通信

 電話は、非常事態下では救急以外の通話は遠慮すること。安否確認は家族だけに止める。一般の安否確認の電話などは、緊急を要する通話を妨げる。良く知られているように、家庭内の電話回線が不通でも公衆電話は機能が確保されている場合があり、比較的かかりやすい。が、神戸では、カードは停電で使えず、また、10円玉が一杯になってしまってかけられなくなった電話機があった。

 親戚や友人の安否の確認は、電話回線の状態が通常に戻ってからにする。誰もがこのことを認識して、外部からの安否紹介の遅れは失礼にはあたらないという意識を持つことも必要だ。また、公的な性格のある業種の企業以外の方も、被災初期の会社との連絡は控えるべきだろう。

 アマチュア無線資格を持っているなら、普段から非常通信について心がけを持っていて欲しい。非常時の発電機による運用は、電話回線不通時の通信網の確保のために重要。非常通信はワッチ(聴守)が基本であることを念頭に、人命最優先で通信を維持したい。

●移動

 徒歩が一番。自転車の場合にはパンクの修理くらいは自分で出来るようになっていた方が良いだろう。

 総じて、初期段階においては、本当に緊急を要する場合や、津波の危険が迫っているなどしない限り、移動は控えることだ。

 周囲が一段落し、ガス漏れや火災の危険度が下がったら、必要に応じて車などで移動することも出来るだろう。だが、それも、救援物資などの輸送を妨げることを念頭に、最小限に止めるべきだ。間違っても、ミニバイクで警官の制止を振り切ったり、その場は歩行者に成り済ますなどということは行ってはならない。交通を遮断するには、それなりに重要な理由があるのだ。

<使うな!>

☆神戸では救急・消防などの非常車両や救援物資の輸送車の通行を、一般車両が妨げていた。長田区では消防ホースが自動車に踏まれ、その結果ホースが破けて消火活動を妨げた。それに、自動車やオートバイなどは燃料を積んだ動く危険物で、発電もしていて、ガソリンエンジンでは高圧の電気が通っている回路もあるから、ガス漏れ地域では危険でもある。間違っても不要不急の車を動かしてはならない。

オートバイが役立ったという記述があまりに氾濫しているので敢えて強調するが、数十リットルの水すら運べないオートバイが大量に走っても、燃料を浪費し、他の危険性を増やすだけだ。筆者はトラックで救援物資を運んでいたが、すり抜けて行くオートバイは運転の妨げでしかなかった。緊急用の薬品の運搬、及び関係省庁などの情報収集といった目的以外のオートバイの走行は認められるべきではない。

ここで認められるような目的の車両であっても、その補助燃料を自力確保し、被災地外の給油可能なところまで自走できる状態でなくてはならない。電気が途絶えて燃料をポンプアップできない被災地では、ガソリンスタンドは機能しない。

●避難

 神戸の避難所では布団が、自分と家族の居場所を確保するために使われた処があった。ある処では、一旦公共の避難所へ避難していながら、その避難所になった学校の校舎が危険なために他へ移ることになった一幕があった。また、私立大学や公会堂では、避難所でないにも関わらず、避難民が押しかけ、受け入れざるを得なくなった処もあった。これは、予想に従って用意されていた避難所のキャパシティを上回る被害が出たからでもある。

 このような場合、最終的に、避難所から被災していない地区の親類や友人宅へ逃げ出せるのなら、そうするのも家族の安全を守るのに有効な手段だし、同時に、被災地への救援物資の負荷を軽減する。この場合、近隣の残る方などに連絡先などを伝え、急用に対応できるようにする。地域での土地の二次災害対策や集合住宅の再建など、貴方を交えた話し合いを必要とする懸案が必ず持ち上がるからだ。

 いずれにしても、余震や二次災害の危険が高い地域では、被災していない地域へ逃げるしかない。この意味では、今後の課題として、近隣の町村にも、非常時に他地区の避難民を受け入れるような準備が必要なのかも知れない。

 ここで、避難にあたって憂鬱になるのは、日本にありがちな表面ばかりの親戚付き合いや、住宅事情の悪さから来る避難先確保の難しさだ。気心の知れた、遠慮のない避難先をお互いに確保しあうのも良いだろう。現実に、一旦大阪へ避難していながら、長居できずに被災地に戻り、自宅近くの公園でテント生活を始めた被災者の方もおられた。

被災地外では、被災者の心理的な負担などに無頓着になりがちである。非常時には、建て前の挨拶としての「良かったらウチへ」は通用しない。もし長期間の受け入れが無理なら最初からそう申し渡し、明確に期限を切るなどしたほうが、後にしこりも残らず、お互いのためだ。

●町内会など

 日常的に煩わしいと思われるかも知れない町内会だが、このような時には頼もしい組織となる。臨機応変に組織を改変し、近隣同志、協力して困難を乗り切ることが大事だ。そのためには、普段からある程度の話し合いを持っておくのが良いだろう。


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©Daisuke Tomiyasu (OverRev) 1997